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関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

最近、日本のスタートアップから「米国進出をどう考えるべきか」「最初の一歩をどう踏み出すべきか」といった相談を受ける機会が増えてきました。

相談を受けているのは、投資先だけでなく、知り合いからの紹介など複数のルートからです。

背景には「スタートアップ育成5か年計画」を掲げ、ディープテックの推進と海外進出支援を推す日本政府の方針もあるでしょう。最近は、こういった「ディープテック × 米国進出」というコンテキストで相談を受けることが多くなっています。

国内市場の成長鈍化や、米国市場の規模感、あるいは米国VCからの資金調達への期待など、さまざまな理由があると思います。

その中で、相談を受けるたびに感じる、ある共通したパターンがあります。

日本のスタートアップに多い米国進出のパターン

それは、日本のスタートアップが米国に進出する際、次のいずれかのパターンで「どう進めたらよいか」と相談されることです。

  • 創業者自身が米国に行く
  • 信頼できる日本人の部下を米国に送る

これは一見、自然な判断に見えます。「会社のことを一番よく分かっている人間が行くべきだ」という発想は、特に創業者には極めて自然でしょう。

ただ、私は個人的には、この「米国進出プラン」を聞くと、少し慎重に進めた方がよい、とアドバイスすることがほとんどです。

米国スタートアップの海外展開でよく見るやり方

米国のスタートアップが日本を含む海外市場に進出する場合、一般的なのは「現地でその市場・領域の実務経験とネットワークを持つ人を採用」することです。米国企業の日本事業立ち上げの際に「カントリーマネジャー」に任命される人の大部分は、その業界で知名度がある日本人、というパターンではないでしょうか。

私が個人的に興味深く感じるのは、シリコンバレー型の経営をお手本にしている日本のスタートアップでも、海外進出の局面になると、この点が踏襲されないことだったりします。

私自身、20年以上前に米国スタートアップの日本法人を立ち上げた際、組織づくりと採用で最も意識したのは「英語が話せることは二の次。採用する分野で十分な能力があり、英語が通じないことを悲観しない—それを乗り越えられるガッツがある」人材を見つけることでした。

創業者が行くべきケース、行かなくてもよいケース

もちろん例外もあります。特に創業者が「米国に本社を移す」という前提で、なおかつ「事業の主戦場を完全に米国にする」と決めて、既存投資家にも納得してもらっていれば、創業者自身が移住するのは合理的ですし、米国の投資家から見ても「本気度」の証として評価されることは間違いありません。

ただ、

  • 日本を拠点にしながら
  • 米国市場を新たに開拓する

という場合には、最初から現地での実務経験とネットワークを持つ人材に任せる方が、結果的にリスクが低いと判断せざるを得ません。

特に赴任先の地域で、多少なりともビジネスの経験がない場合、銀行口座ひとつ開設するにも、今までの常識が通用せず、些細なことにとてつもない時間がかかりうる「移住」という選択肢は、24時間フルタイムで忙しいスタートアップの創業者(と、それを見守る投資家)にとっては、とてつもない機会損失だからです。

わたしのオススメ

わたしのオススメは、以下のように現地で有能な人を採用するものです。

  • 日本から人を送らず、現地でキャリアとネットワークを持つ人を起点にする
    • 最初はフルタイム採用に限らず、アドバイザーや業務委託から始めるのも現実的
    • アドバイザー契約には、例えばFounder InstituteのFASTといったテンプレートがあります
  • 採用後すぐに現地で走らせるのではなく、まずは出張ベースで日本に何度か来てもらい、プロダクトやチーム、意思決定の背景を理解してもらう
  • その上で「勝てる手応え」が見えてから現地オフィスを立ち上げる

この「最初に会社(日本側)を深く理解してもらう」プロセスを省くと、日本の本社と現地リーダーの間で情報や期待値のズレが生じ、うまくいかなくなるケースをよく見ます。

米国VCの視点(もし米国からの投資を狙うなら)

もし米国VCからの投資も視野に入れている場合、特に重視されるのは次の点です。

  • 誰が現地で立ち上げるのか
  • その人が、その市場で信頼を持っているか

英語が話せるかどうかよりも、現地のオペレーションを効率よく立ち上げ、顧客やパートナーのキーマンにすぐに会えるだけのネットワークを持ち、実務をまわせるかどうかを見ると思うからです。

繰り返しになりますが「現地での実績とネットワークを持つ人」を起点にし、その人に「日本側を深く理解してもらう」時間を十分に取ること。このシンプルな原則を守るだけで、失敗のリスクは大きく下がると思います。

もしアドバイスなどが必要でしたら、お問い合わせください。