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関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

ゴールデンウィーク直前の4月25日、東京・西荻窪で開設予定のコワーキング・メーカースペース「Nishiogi Place」が、今年の夏から「Project Management Bootcamp(仮称)」を始めると発表しました。そして、日本のハードウェア・スタートアップ業界を牽引するCEREVOの前CEOである岩佐さんをはじめ、多くのアドバイザー/メンター陣の一人として、私もリストしていただいています。今回はなぜ、このProject Management Bootcampに賛同しているのかについて書きたいと思います。

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異なる文化を持った組織間の取引は難しい

米国のハードウェア・スタートアップに、日本での試作・量産のプロジェクト管理を組み合わせて、新しい国際的なスタートアップ向けサプライチェーンを構築しようと活動を本格化したのは2016年。それ以来、複数のプロジェクトの間に立って(正確にはスタートアップ側に立って)きました。

どのプロジェクトでも、現場から課題として上がるのは、次のようなものです。

  • 言語(日本語/英語)
  • 物理的な距離(ハードウェアをお互いで見せ合えない)
  • 時差(やり取りがタイムリーにできない)

しかし、私が日米間でのプロジェクト、特に米国のスタートアップと日本の大企業の間のプロジェクトに(米国のスタートアップの視点で)20年ほど携わって感じる課題は、上記の3つよりも、むしろ次のようなものに集約されます。

  • 仕事の進め方の違い(例: 大企業とスタートアップ)
  • 置かれたビジネス環境の違い(例: P/L重視かキャッシュ重視か)
  • 社会インフラの違い(例: クレジットカード決済かFeliCa決済か)

同じ国や組織の中で生活していると、こうした「当たり前のもの」が、実は相手の環境では異なっていることを意識しないからです。この事実は「現場から課題として上がる」ものに、こういったものがほとんど上がってこないことからも伺えます。

なので、プロジェクトで相手の組織とやり取りするインタフェースになる人を選ぶ際には、私は次のような視点で選ぶことが多いです。

  • 言語能力(=バイリンガル)よりも、現場での実務経験
  • スタートアップでの就業経験や取引経験
  • 米国企業での仕事の進め方の知識・経験

日本の製造業に従事するプロジェクトマネジャーは優秀な方が多く、この方々が国際的なサプライチェーンが拡大している現在、国際的な舞台で活躍できる可能性は高いと考えています。またプロジェクトマネジャーの経験が乏しくても、学校教育や文化的な背景から、プロジェクトマネジャー向けの人材が多い印象を持っています。

一方で、「スタートアップに関する知識・経験」や「日本企業と米国企業での仕事に対する姿勢の違い」については、そもそも知識や経験を得る機会が日本では乏しく、結果として「日本流」でプロジェクトを進めてしまい、後から隘路にはまるという事例が少なくありません。

経産省が「スタートアップのモノづくり支援」を提案

一方で、昨年の夏ごろから、経済産業省(経産省)が「スタートアップのモノづくりを支援する拠点を、日本各地に作る」という構築事業が立ち上がりました。こうした拠点は、スタートアップがハードウェアを「試作・量産」する上での課題を解決することを目的としています。ただスタートアップが少ない日本だけを対象にするのでは経済合理性がないため、「グローバルな受託体制」を作ることが不可欠です。

実際、経産省のご担当の方の計らいで、この支援事業に関して、いろいろな方にお会いしましたが、多くの方が「海外のスタートアップからどのように受注するのか」に高い関心をお持ちでした。

日本の製造業は、コスト削減のために発注先を中国をはじめとするアジア諸国に広げてきました。しかし海外からの受託は少なく、あったとしても米国の大企業からの受注がほとんどです。日本の製造業は、受託に関しては「ガラパゴス化」が進んでいます。

一方、中国・深センが「中国のシリコンバレー」「ハードウェアのシリコンバレー」と呼ばれて数年が経過しました。深センのスタートアップを支えているのは、スタートアップからの受注の経験が豊富なサプライチェーンの層の厚さです。このサプライチェーンを作り上げた大きな推進力は、米国のスタートアップからの製造受託にほかありません。

深センが「中国のシリコンバレー=スタートアップのメッカ」になれたのは、政府が「スタートアップ振興」を進めたからだけではありません。米国のスタートアップ企業からプロジェクトを受託し、一緒にプロジェクトを進める上で、「起業家スピリット」を体験し、場合によっては米国スタートアップ企業に転職し、その人が地元に戻り起業する、というような、「人の成長の過程」が不可欠だったはずです。

一方、起業家スピリットにあふれ、何の体験もなく、いきなり単身シリコンバレーに渡れるような方は決して多くありません。日本国内では、そもそもいきなり会社を辞めて起業するというのは簡単ではありません。

確かにシリコンバレーには多くの成功した起業家が、エンジェル投資家やVCとして活躍しており、数多くのメンターも揃っており、いきなりの起業を支援する環境に恵まれています。

それでも多くの起業家は、まずはスタートアップ(もしくはスタートアップ・スピリットを失っていないテック企業)に入り、そこで得た経験や人脈を活用して、自分自身のスタートアップを始めます。

私がニューヨークに拠点を置くFabFoundry社を通じて、米国のスタートアップ企業を日本に招待し、一定期間、日本で活動してもらいながら、日本のエコシステムの一部として活躍してもらうことを続けているのは、まさに「日本の起業家を増やす」ためには、まずスタートアップ企業と一緒にプロジェクトを体験する」や「スタートアップ企業に勤めてみる」という機会を増やす必要があるからだと考えているからです。

2016年春に「Monozukuri Bootcamp」を、京都のMakers Boot Campと始めました。現実のプロジェクトを通じてリアルにスタートアップと触れ合える「エコシステム」を日本の中に作ることを目的の一つとしたのです。このエコシステムが出来上がると、先ほど述べた日本の製造業の「ガラパゴス化」を止めることができるに違いないと考えたのです。実際に、6人のスタートアップのメンバーが6週間を過ごした京都では、その半年後にハードウェアに絞ったVCファンド「MBC試作ファンド」が立ち上がり、日本と米国のハードウェア・スタートアップへの投資をトリガーに、米国スタートアップとのプロジェクトが増えています。

世界のスタートアップに触れ合える機会を作るだけでは、閉鎖的な日本の製造業の考え方をグローバルに変革させる事は短期間では難しく、また世界のハードウェアスタートアップも日本や中国を含めた「海外のモノづくり企業との取引」や「製造プロジェクトの管理」のノウハウも無いため、双方の間に立って緩和剤の役割を果たしつつ製造プロジェクトを管理できる「プロジェクトマネジャー」に対してのニーズが増えており、「プロジェクトマネジャー」を養成していく必要性が高まってきていると考えています。例えば、経産省のスタートアップファクトリー支援事業は、「グローバル・ベンチャー・エコシステム連携加速化事業補助金」として平成29年度補正予算が30億円つきました。

先人の追体験や実プロジェクトの体験を重視

Nishiogi Placeを始めるHee Gun Eom氏から、西荻窪でメイカーのコミュニティを作るためのアドバイスを求められたのは、まさにこのようなタイミングでした。私の中では「こうした機運が広がる中、ボトルネックになるのは、人材の供給である」という危機感がありました。

(後編に続く)