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関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています


戦術と指揮―命令の与え方・集団の動かし方 バトル・シミュレーション
数日前にエントリーした「戦術と指揮」だが、読み直してみると改めて気づかされることが多い。

例えば2章は「基本演習」と題して、ミニクイズ形式で戦術の基礎を学んでいく。1ページにクイズ(というよりは演習ですな、やはり)があり、ページをめくると1ページが解答と解説になっているのである。例えばこんな感じ。


Battle 4・屈折点における戦い方
本書75ページ

演習5敵と味方が、一直線の作戦線において出あう場合は、たくみな戦術をつかうことはむずかしく、力まかせの戦闘になる。

したがって、戦場の選定は、テクニックのつかいやすい作戦線がまがった部分(屈折点)がえらばれる。戦場は、この屈折点に先に到着した側が、主導権をにぎる。

作戦線の屈折点を利用して防御する場合、A〜Cのいずれが有利か?


みなさんの答えは、A、B、C、どれだろうか?
(すぐに続きを読まずに、少し考えてみてください)。

これに対する解答はこんな感じである。


Battle 4・屈折点における戦い方
本書76ページ

Ans. C

演習5解答A戦闘部隊はいつも背後連絡線を引きずり行動している。この背後連絡線を断たれることは致命的である。

Aのように、防御側が、屈折点より前方に出て、防御陣地をつくると、屈折点の内側から攻撃されて、背後連絡線を切断されるおそれが多い。それだけ、屈折点内側に対する防御配備を強化しなければならず、兵力をさかれることになる。Bはちゅうとはんぱだ。

演習5解答C一方、屈折点を前方にするCだと、このような配慮が不要になるばかりか、攻撃に転じた場合、逆に敵の背後連絡線にせまりやすい。

したがって、相手側は、いつも屈折点の内側の防護に兵力をさくことになり、攻撃の主攻をこの方向に限定されることになる。

よってCである。

とまあ、こんな感じである。まだこの辺りの問題はアッサリしているが、後半の4章〜6章になると、各章で完結するような状況設定(場所、部隊だけでなく、兵士の心理などの描写もある)がなされたシミュレーション・シナリオになってくる。シナリオの途中には、上記のような選択肢が出て、そしてシナリオが進行していく。


ただ本書が興味深いのは、この演習問題があるからだけでもない。いや、むしろ戦術そのものに興味があるというよりは(戦術ゲームとかが好きなので、ゼロではないが)、むしろ答えを探す過程に、たくさんの気づきがあるのが、私が本書にひきつけられている理由のような気がする。

こうした演習は、基本的には「論理的」に考えれば、おおむね解答にたどり着くはずである。しかし実際には、なかなかうまくいかない。それはまず、演習問題の設問は、かなり単純化されているからである。解答を導く過程で、問題側には提示されなかった別の要素が出てくるのである。

しかし、「そんなのは条件になかったよ」というのは筋違い。さすがに戦場を体験した人は、かなり少ないと思うが、それでも戦場という「場」を想像することはできる。生死を決めるような状況では、情報の収集能力や分析能力だけでなく、想像力も大きな意味を持つのではないか。

そして、これはビジネスの世界でも、結局同じことなんではないかな、と思う。想像を超えるような偶発的なことはもちろん起こるだろうが、起きてから「その可能性もあったな。忘れてた」なんてことは、日常よく起きている。それでも、自分の慣れた仕事だと、だんだん経験と勘が身についてきて、だんだんケアレスミスは減っていく。

しかし、それは同時に、偶発性(変化)への適用能力の退化を招くような気がしてならない。少なくても自分は、もう十数年、そういう危機感を感じて生きてきているような気がする。

結局、進化の過程で生き残るには、「変化への適応力」の高さがひとつの大きなカギになる。

この本は、そういった刺激を与えてくれた本である。もう2年以上前に買った本で(刊行は8年前)、この本を買った赤坂・赤坂通りの書店も、先月閉じてしまい、今ではCafe du mondeというカフェになってしまった。

この本と再会したのも、いい意味での「セレンディピティ(serendipity)」として、もっと読み込んでみよう。

もっとも本書は、ときどきムリに、内容をビジネスにたとえて解説しているところがあるが、これはピンキリ。ただ、ひとつ、けっこうよかったな、というのを引用する。


コラム『態勢の弱点にダマされるな!!』
本書110ページ


戦術と指揮―命令の与え方・集団の動かし方 バトル・シミュレーション
戦術においても、ふだんのビジネスにおいても人は簡単に「相手の弱点」をつけという。しかし、弱点には2種類ある。

第一の弱点は、「敵自身の弱点」である。すなわち、目前の相手自身が示している弱点だ。
(中略)
第二の弱点は、「態勢の弱点」である。たとえば、河川と隘路の不利な地形を背景にして戦闘陣をかまえているとか、…
(中略)
敵の弱点に乗じようとする側(攻撃側)がもっとも「ワナ」に自分からはまりやすいのは、あるいは敵の仕かけた「ワナ」にはめられやすいのは、「敵自身に弱点がなく、敵の態勢に弱点がある」場合である。

敵の態勢の弱点に乗じたくなるのは人情である。しかし、敵もまた自分の態勢の弱点を明確に認識しているのが通常であり、十分対策を考慮している。…
(中略)
ということは、態勢の弱点を承知のうえで、放たれている部隊の指揮官は、最優秀の指揮官がえらばれていることになる。「放たれ狼、一匹狼は強い」のだ。