Sync A World You Want To Explore

関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

「タッチの時代はじきに終わるかもしれない。スマホや家電、車載システムでは、タッチ・インタフェースはすでにメインではない」― Amazonの大ヒット商品「Amazon Echo」などを擁するAmazon Alexa製品ファミリーのシニア・エバンジェリストを務めるAmit Jotwani氏は、こんな一節を引きながら、音声認識がすでにユーザー・インタフェースのメインストリームに躍り出ていることを強調しました。

IMG_5806.jpgIoT New York Meetupで講演するJotwani氏

すでに300万台以上を出荷か

スマートフォン普及の起爆剤になったiPhoneが2007年に登場してから来年で10年。それ以来「タッチ」をベースにしたユーザー・インタフェースは爆発的に普及しました。しかしタッチ時代を牽引したスマートフォンに標準搭載されたことで、米国では音声認識インタフェースが一般ユーザーに広がっています。そんな土壌がある中、Amazon Echoは一説にはすでに300万台が出荷されているとのこと。Amazonは数字を公開していませんが、それでもJotwani氏は「100ドル以上のAmazonのハード製品では最高の売上」と好調ぶりを隠しません。

この講演は、Google I/O 2016で「Google Home」が発表された直後であったこともあり、ミートアップへの参加登録者は平日の夜の開催にもかかわらず通常の約2倍にあたる400人弱。また彼の講演が終わった後の質疑応答では、30分が経過しても一向に収まる気配がなく、平日の夜にも関わらず多くの参加者が会場に残ってJotwani氏に質問を繰り返していました。

2週間後に予定されているAppleの技術者向けカンファレンスWWDC 2016でも、音声認識ユーザー・インタフェースを備えたスマートホーム端末の発表が予想されるとの報道もあります。Appleは音声認識アシスタントSiriをいち早くスマートフォンに標準搭載し、またスマートホーム家電とのインタフェース規格HomeKitも1年前にリリース済みで、対応製品も増えています(参考記事: アップルの「Siri」SDK--「Google Home」「Echo」阻止で期待される一手

現代版「多機能リモコン」にスマート家電が対応できるか!?

Amazon EchoやGoogle Homeといった「スマートホーム端末」でもっとも注目されるのは、「音声認識」で実現されるユーザー・インタフェースでしょう。実際、インターネットの常時接続により、音声コマンドに対する認識精度は飛躍的に向上しました。実現を支える「AI」や「クラウド・コンピューティング」などの最新技術に注目が集まっています。

しかし、Amazon EchoやGoogle Homeは本質的には、音声認識インタフェースを実装した「多機能リモコン」という位置付けの製品だと私は考えています。現在はスマートホーム家電が少なく、利用用途は「検索」などインターネットのサービスが中心なので、AIによるアシスタント機能に注目が集まっています。

しかし「スマートホーム」が実現される中、家の中のスマートホーム家電を「リモコン」と接続できなければ、いくら音声認識の精度が高くても、便利に利用することができないからです。

実際、我が家ではAmazon Echoを使い始めて1年以上になりますが、利用用途の大半は「電球のオン・オフ」と「天気予報を聞く」ことです。テレビの視聴でさえ、テレビやケーブルテレビのSTB(セット・トップ・ボックス)が対応していないので、ふつうのリモコンを使っています(知る限り、テレビの操作をAPI経由で外部からできないです)。リモコンをエミュレートして、操作コマンドを送ることはできますが、コマンドが成功したかどうかなどの結果を得ることができないので、「スマートホーム」というには、ちょっと物足りないです。

オープン・エコシステムでサードパーティ対応で一歩先いくAmazon

Amazon Echoの強みは、Alexaのエコシステムがオープンで、サードパーティ製品・サービスの対応が進んでいることです。以下の図のように、音声サービスのフレームワーク「Alexa Voice Service」と、スマート家電やウェブサービスと連携するための「Alexa Skills Kit」からなり、Alexa Skills Kitはオープンで、誰でもSkillを開発して公開することができます。

Screenshot 2016-06-02 21.21.54.png

Skillを公開するには以下の写真のように、ブラウザベースのインタフェースで手軽に作ることができます。

IMG_5822.jpg

Skillの一覧は、Alexaのアプリ内でしか参照できませんが、5月末の時点で1000を超えています(なおLove My Echoが週次でリストを更新しています: Complete Alexa Skills List - Love My Echo)。

これに対して、Google Homeは、Googleが既存のサービス、CalendarやGmail、Mapsなどで、ユーザーのパーソナル・アシスタント的な情報の整理・統合機能をすでに提供しています。またスマートホーム家電のインフラであるWi-Fi無線ハブOnHub(日本未発売)などの製品もあり、Nest製品群との連携を含め、自社製品を使った垂直統合的なソリューションへの市場からの期待感は大きいでしょう。

launchpartnershome.jpg

しかし現時点ではサードパーティが気軽にAPI連携するような仕組みは提供されていません。Androidというプラットフォームを持っている利点はありますが、Googleが自社サービスに閉じた世界ではなく、サードパーティがイノベーションを起こせるような仕組みをどれだけ作れるかが、後発としてAmazon Echoを追撃する一つのカギになるのではないでしょうか。

異なるメーカーでも同じ操作体系を維持できるか?

スマートホーム端末として重要な第1段階が、多くのIoTやスマートホーム家電、インターネット・サービス(アプリ)とつながる(連携する)ことだとすると、次の段階は「操作体系」の共通化でしょう。

具体的に、例えば、最も普及しているIoT/スマートホーム家電の一つである、Philipsの電球「Hue」で考えてみます。第1段階がHueにアクセスできるかできないかだとすると、第2段階はどこまでキメ細かい操作を実現できるかになります。例えば「オン」や「オフ」しかできないのか、それとも「照度を30%に設定する」など、そのデバイスの機能に応じた操作が外部から実現できるか、ということです。

ホーム・オートメーションの仕様としては、ZigBee AllianceのZigBee Home Automationなどがあります。現行では「ホームハブ」と呼ばれる製品を使ってホーム・オートメーション対応の家電を登録し、Amazon Echoはホームハブ経由で家電を制御するというのが一般的です。またAmazonは最近、Smart Home Skills APIを公開し、電球やサーモスタットの制御を可能にしました。またHueなどのように開発ベンダーがAlexa対応しているケースも、Amazon Echoから直接、家電を制御できます。

「多機能リモコン」でも、例えばビデオ再生の早送りは「▶▶」のように、一定の共通化が図られており、こうした共通化された機能は、機種が異なってもシームレスに利用できます。一方で、独自機能についても、「ボタンを押す」ということさえ行われていれば、ボタンに機能をアサインすることができます。

前者は業界の標準仕様であり、後者はAPI経由の独自機能と考えることができます。現在、オープン化されたエコシステムで後者の機能で先行しているのがAmazonだと考えればよいでしょう。

実際、Amazon Echo対応のデバイスやサービスは着々と増えており、またスタートアップ企業の支援ファンドAlexa Fundを設けており、Amazonはプラットフォーム・エコシステムの強化に余念がありません。この4月には、Alexaプラットフォームの各種機能にアクセスするAlexa Skills Kitに新たにSmart Home Skill APIを加え、Amazon Echo経由でスマートホーム家電に簡単にアクセスできるようになりました。

スマートホーム家電の統合プラットフォーム

一方、Appleはすでにスマートホーム家電へのアクセスをHomeKitで提供しており、iOS上のパーソナル・アシスタント機能Siriを使えば、スマートホーム家電の操作が可能です。

HomeKit

Amazon EchoやGoogle Homeのような専用デバイス(両製品とも位置付けは「音声認識機能付きスピーカー」)なしでも、音声によるスマートホーム家電の制御が可能です。今秋登場予定のiOS 10では、HomeKit対応のApple純正アプリが搭載されるとも噂されています。

キビキビした音声認識による操作で米国市場ではAmazon Echoが一歩抜きんでいる印象があります。しかし、英語以外の対応を考えた場合に、音声認識以外の操作方法についても考える必要があります。

特に日本国内では、多くのIoTデバイスは専用アプリでしか動作しないため、操作するデバイスごとに別のアプリを利用する必要があるからです。

米国では、統合的なスマートホームアプリを目指すベンダーとしては、前述の3社に加えて大手ではSmartThingsを買収したSamsungやWinkを買収したFlextronics、スタートアップではIFTTTやYonomi、Muzzleyなどがあります。

コンシューマ向けIoTの主戦場の一つであるスマートホーム家電は、主要プレイヤーの製品戦略が出揃ってきたこともあり、今年後半から来年にかけて、さらに注目を集めるでしょう。

次は、もしニーズがあれば、具体的な利用環境とかをご紹介しようかと思います。