店舗を配送用センターとする「ダークストア」は、デリバリー専用のレストランである「ダークキッチン」などとともに、コロナ禍を機に一気に拡大している。
従来からレストランにデリバリーの選択肢を与えるフードデリバリーは、日本でもUber Eatsの成功などで認知が広まっているし、米国ではスーパーでの買い物を代わりに行ってくれるInstacartなどが定着して久しい。
しかしダークストアやダークキッチンを専業でやる動きは、米国でもまだ始まったばかりだ。
Uberを追われた創業者Travis Kalanick氏が2019年に創業したCloudKitchensは、日本ではあまり報道されていないが、すでにKalanick氏が私財を1億3000万ドル(140億円強)も投じていると報じられている。(Inside ex-Uber CEO Travis Kalanick's secret ghost kitchen startup - Business Insider)。サンフランシスコやニューヨークといった都市では、コロナ対策のためにレストランの営業が厳しく制限されており、一方でデリバリーサービスの躍進は著しい。
ダークキッチンは、利便性を得るために高い家賃に苦しむレストランが、デリバリー専業に転換するための、さながらKaaS(Kitchen as a Service)と言えるだろう。
長引くコロナ禍を見越して、スーパーマーケットそのものをダークストア化してしまう事例が、今年9月にAmazon傘下のWhole Foodsがニューヨーク市ブルックリンに開いた店舗である(No customers can enter this new Whole Foods Market online-only store)。高級スーパーのWhole Foodsだが、この店舗には一般客はいない。配送を請け負う、いわゆる「ショッパー」が、オンラインで依頼された商品をピックアップし、一般消費者の家まで届ける。Amazon Prime Nowのサービスの一環である。
ダークストアかハイブリッドストアか
専門のダークストアを導入する理由はなんだろうか? 例えばAmazon Prime Nowでは最短で1時間以内の配送を実現する。複数の注文を効率よくパッキングし配送するための店舗は、一般客が買い物をする「普通」の店舗とは異なる動線設計にするのは当たり前である。Amazonが展開するオンラインスーパーAmazon Fresh Storeは、配送センターであるだけでなく一般客も買える、いわゆる「ハイブリッド・ストア」である。Amazon Fresh Storeはすでに全米で数カ所の店舗展開をしており、一般客は、7月にお目見えした専用スマートカート「Amazon Dash Cart」を使えば、レジでの精算が不要なだけでなく、いつでも買い物の総額を確認できる。
総額が分かるのは一般客へのサービスはもちろん、店舗の正確な在庫数の把握にも有効である。というのも、Amazon Prime NowでWhole Foodsの注文をすると、Amazonへの注文と異なり在庫数の引当が正確でなく、実際に「ショッパー」が買うころには店舗で売れてしまっており、欠品扱いになることが少なくない。
また一般客に対する店舗の設計では、一般客が店舗で「衝動買い」するような仕掛け作りのため、多大な労力が費やされてきた。しかし店舗が一般客の衝動買いに特化すると、ピッキングに特化したダークストアの設計思想とは相容れないところが少なくないと思われる。
小売り大手で、技術への投資に余念がないTarget社は、2019年秋に「Target Guest eXperience Center(GXC)」をオープン。納入業者などとともに、新しい顧客体験のための実験をする施設としている。コロナ禍が始まってから同施設について報道されることは少ないが、業界関係者によると、新しい店舗の動線設計のための技術投資が行われているようだ。
続報が入り次第、またレポートする。
(つづく)