Sync A World You Want To Explore

関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

シックス・アパート広報の壽(ことぶき)さんが書き上げた力作「リモートワーク大全」(ポプラ社)が無事に出版されました。そしてご丁寧にも、書籍をニューヨークまで送ってくださいました!

ニューヨーク・ブルックリンにある関のリモートワークのベースキャンプに鎮座する「リモートワーク大全」の雄姿

本書末尾の「おわりに」で、私の名前も掲載されていたので「もしかして事例として本文中で紹介されているのかな?」と思い、主に章の終わりにある「コラム」を中心に読んでみたのですが、ニューヨークの様子などは書かれておりません(特に情報もシェアしていないので当たり前なのですが 笑)。

で壽さんご本人にSlackで聞いてみたところ、

「SAWS(関注: Six ApartらしいWorking Styleの略)」の歴史というか、SAKK(関注: Six Apart株式会社の略)の歴史の部分は関さんあってのものなので謝辞に入れさせていただきました。例えば、震災後の夏期のみ水曜リモートが始まったのは関さんきっかけですしね。現在、海外で働く仲間もいる箇所もそうですし」
とのお返事。

壽さんが入社したのは東日本大震災の直前の2010年で、確かに水曜にリモートワークしても良い雰囲気(というより水曜にミーティングを入れない風潮)は、すでに出来上がっていたかもしれません。なので今回は、壽さんも知らない、シックス・アパートのリモートワークの歴史を紐解いてみたいと思います。


夏休み代わりに毎週水曜を休んでいた

元々は、当時シックス・アパートの社長だった私の習慣によるものでした。ちょうど2005年のブログ記事に、その背景を語るものがありますので引用してみます。


酸素カプセルに入ってきた
2005年08月12日


長期休暇がとれそうにないので、現在「毎週水曜に休む」という夏休み方法を実践しています(前の会社のときに編み出した方法。2日仕事して休む、というのは、予想以上に効果的。身体がラクです)。

当時は会社が軌道に乗り始めたところで、とにかく忙しかったので、「夏休みに1週間休む」などの長期休暇は難しく、とはいえ休まないと長期戦は戦えない。ということで、毎年7月後半から9月いっぱいまで、毎週水曜は休む、ということを実践していました(多分2004年から東日本大震災まで毎年)。これで夏休みとして、毎年10日間を休み、体調を崩しがちな夏場を乗り切っていました。

水曜から定例ミーティングがなくなった

とはいえ、実際には休みであろうと、その日に意思決定しないといけない案件などは発生するので、実際には「オフィスに行かない日だが、メールや電話では連絡がつく日」と会社では解釈されていました。

(余談ですが、上記の「酸素カプセルに入ってきた」のときも、実際には酸素カプセルにはガラケーを持ち込んでおり、メールの返信はしっかりやっていた記憶があります。そして、酸素カプセルに入っている様子をブログで実況中継していました)。

2005年当時は、まだ社員が15人から30人といった時代で、私もまだ、かなり多くのミーティングに出席していました。ところが、私が夏の間は水曜を休むために、水曜に私が参加するミーティングを設定することが出来ません。そのために夏場は、水曜には定例ミーティングは設定しない、という習慣が出来てきました。

水曜にミーティングが少ない、ということを利用して、資料作成など集中したい作業を水曜に実施する社員も、少しずつ増えていきました。

節電で水曜日を恒久的にリモート化、しかし…

ときは下り2011年。東日本大震災と、その後の原発問題で、首都圏の電力が逼迫し、計画停電や節電が社会課題となりました。確かこのとき、夏場のピーク電力をカットするために、毎週水曜をリモートワークの日と決めて、オフィスの節電に取り組んだ記憶があります。実際、会社のオフィシャルなメッセージとして、広報ブログを通じて「シックス・アパートは節電対策のため、夏期の毎週水曜日は自宅作業です」とアナウンスしています。


シックス・アパートは節電対策のため、夏期の毎週水曜日は自宅作業です - 広報ブログ


この「週に1度の自宅作業」は節電対策の一環としてスタートしていますが、個人的に業務形態としてすごく良いと感じています。列挙していくと、



通勤時間(私は往復で2時間かかる)から解放される

満員電車で過ごす2時間から解放され、その時間でいろんな事ができます。2時間あればかなりの量の仕事がこなせるし、プライベートの時間にも余裕ができます。

作業に集中できる

電話もかかってこない、打ち合わせが1件も入らない、自宅では好きな音楽をかけたり、好きな体勢(笑)で、誰にも邪魔されず仕事することができます。
私の場合、まとまった時間を要する作業(調べ物や資料作成など)はできるだけ水曜日のタスクとしてとっておくようにして、この日に一気に片付ける、というワークスタイルが確立されてきました。

その他個人的に嬉しいこと

平日自宅作業だと、週の中日に洗濯できる、ふとんが干せる、荷物の受取りが出来る、昼ごはん代が節約できる、平日でないと出来ない用事(役所)とかが可能になる...などなど。


このような感じで、2011年当時には、すでにシックス・アパートでは、リモートワークへの移行のための下地は出来ていたことになります。

オフィスの半分で冷房を止め、部署によらない席の配置へ移行

ただ実は、ピーク電力のカットという意味では、週の1日だけオフィスを閉じても、あまり意味がありません(他の曜日のピーク電力の低減には寄与しないため)。計画停電のように、オフィスを閉める日を地域全体で調整しないと、当時の課題であったピーク電力の15%削減は達成できないわけです。

そこで当時のシックス・アパートでは、オフィスの真ん中に、透明のビニールカーテンの仕切りを作り、オフィスの片側は冷房を稼働、もう片側は冷房をつけずに、窓を開けてサーキュレーターを使う、という運用にシフトしました。

会社の真ん中をビニールのカーテンで区切って、エアコンの影響範囲を最小限に。奥の方では、自然風エリアの住人が避暑しているのがわかります

エアコンの強弱の好みは千差万別。同じ部署に属していても、暑がりの人と寒がりの人が隣り合わせで、空調の温度設定でもめる、というのもどこの会社でも発生しているのではないかと思います。

節電のために冷房を使う区画と使わない区画を作ったことで、「業務」ではなく「空調の好み」という区分けで席の配置を決める、という運用が2011年の夏に始まりました。

つまりリモートワークのとき以外でも、仕事のオンオフを自主的に切り替えて、必要に応じて同じ部署の人間に話に行くとか、他の部署の人間ともカジュアルな会話をしに共有スペースに行く、といった、能動的な社内コミュニケーションを図る習慣が、会社全体に根付いていったわけです。

これがフルリモートワークであるSAWS移行後も、Slackなどで定期的に部署を超えた「ランチ Zoom」などが自然発生する土壌になっていると思います。

PS
私自身は2012年からは仕事の比重を海外(ニューヨーク)に移しており海外出張ばかりになり、2014年にはニューヨークに引っ越したり、コロラドの会社を買収したため、日本とのやり取りだけでなく、米国内の業務も、リモートワークが当たり前になっていました。

特に日本人と米国人が同席するリモートの打ち合わせでは、表面的には意思疎通出来ているように見えても、実は細部はまったく共有できていない、ということが頻発します。そこで、このころから、Google Docsを使ったリアルタイムの議事録の作成を本格化し、文字ベースで細かい齟齬をその場で解消していく、という手法にシフトしました(それまでは、進行役が取るノートを、プロジェクターで全員に見せる、という方法が主体でしたが、リモート参加の人は内容の理解を音声に頼っていました)。

この辺りのTIPSは、後日ブログにまとめる予定です。

更新) 以下の関連記事にまとめています。

関連記事