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関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

Silicon Valley Bank(SVB)が破綻してから、日本の方からも「SVBのベンチャー・デット(融資)とは、どういう仕組みなんですか?」と聞かれるようになりました。

端的に言うと、SVBのベンチャー・デットは、スタートアップに出資しているVCが次のラウンドをまとめられるか? 追加投資の資本を確保しているのか? といった、将来のVCマネーへのアクセス能力を重視しています。

ベンチャー・デットの基本的な構造は、金利、手数料、株式購入権(ワラント)です。ローンの期間は3年から5年で、最初の12か月は利息のみの返済、その後は元本を含めた返済といったイメージです。

日本でもベンチャー・デットが徐々に広がりつつあるようですが、20年以上にわたってベンチャー・デットを提供する、この分野の草分けであるSVBは、特にVCコミュニティとの関係性を重視しているのが大きな特徴です。

SVBのベンチャー・デットの概要を、同社のEarly Stage Lending Innovation部門のSenior Vice PresidentであるArmando Argueta氏の許可を得て翻訳しました(オリジナル: Venture Debt: How it Works)。

なおこの解説にあるようにベンチャー・デットは一般的にシード・ステージのスタートアップでは利用できません。しかしArgueta氏のチームは2022年5月からシード・スタートアップ向けのベンチャー・デットを提供しています。こちらについては、また別の記事で説明します。基本的に12か月以上のランウェイがあることが前提条件になります。

ベンチャー・デットは返済期限がある融資である。スタートアップが次のVC投資を受けられることを前提にした独自の融資手法だ

Title: How Venture Debt Works

Author: Armando A Argueta, Senior Vice President | Early Stage Lending Innovation at Silicon Valley Bank

重要なポイント
  • エクイティ(株式による調達)とベンチャー・デット(負債による調達)の違いを理解し、その両方を活用することが重要です
  • ベンチャー・デットは、業績保証、買収や資本支出のための資金調達、次のエクイティ・ラウンドへの橋渡しとして利用することができます
  • 融資は付き合いの始まりです。パートナーシップを重視する融資担当者は、柔軟性を重視し、あなたの会社や投資家と長期的なゲームをすることになります

事業の構築と成長のために機関投資家のベンチャー・キャピタル(VC)を調達する場合、調達したエクイティを補完するためにベンチャー・デットの利用を検討することは価値があります。ベンチャー・デットとは、銀行やノンバンクが提供するローンの一種で、VCの支援を受けたアーリーステージの高成長企業向けに特別に設計されたものです。VCが出資するスタートアップの多くは、SVBなどの銀行から、ある時点でベンチャー・デットを調達しています。

ベンチャー・デットの第一法則

ベンチャー・デットの最初のポイントは、ベンチャー・デットはエクイティに続くものであり、エクイティに取って代わるものではないということです。ベンチャー・デットの担当者は、VCの支援を検証し、融資の主要な基準として利用します。アーリーステージ・スタートアップがベンチャー・デットを効率的に調達するには、前回のエクイティ・ラウンドに関連する業績目標、次のラウンドを調達するための意図したタイミングと戦略、そして融資がこれらの計画をどうサポートするかを正確に説明できる必要があるでしょう。

ベンチャー・デットの調達可能性とその条件は、そのスタートアップが置かれた状況に依存します。融資の種類や規模は、事業の規模、これまでに調達したエクイティの質と量、そして融資の目的によって大きく異なります。

利用可能なベンチャー・デットの額は、会社が調達した株式の額によって調整され、融資額は直近の株式ラウンドで調達した額の25%から35%前後になります。売上が立つ前や、製品の市場性の検証中のスタートアップに対する融資は、事業を拡大中のレイター・スタージのスタートアップが利用できる融資に比べ、はるかに少額になります。またVCが投資していない企業は、ベンチャー・デットを受けることは難しいです。

デットとエクイティの役割

デットとエクイティの基本的な違いを理解することが重要です。

株式による資金調達の場合、返済は通常、必要ありません。10年以内に何らかのエグジット(上場や買収)を想定します。資金調達時に償還請求権などが紛れ込む可能性がありますが、エクイティは長期資金です。エクイティは非常に柔軟で、ほとんどの事業目的に使えます。しかし価格の変更や、株主構成の再構築が困難です。

これに対し、負債には短期的な資本と長期的な資本があります。その構造、価格設定、期間は、資金の目的と密接に関連しています。借入金には、財務制限条項や返済条件の設定など、貸し手が負担する信用リスクやその他のリスクを軽減するための工夫が施されていることもあります。

借り手の視点から見ると、負債の資金使途が限定されてしまいます。一方、貸し手は、借り手の現在の状況に合わせて融資条件を決め、融資額を設定できます。

起業家の視点

もし価格だけを考慮するのであれば、ほとんどの起業家は所有株式の希薄化を避けるため、負債だけで資金を調達するでしょう。

しかしベンチャー・デットの第一法則を考慮すると、この方法はスタートアップのような高成長企業には不向きです。VCを避けてビジネスを立ち上げることはできますが、その場合はベンチャー・デットは選択肢にならないでしょう。

より古典的なファイナンス手法である、キャッシュフローをベースにした融資や、資産ベースのクレジット・ラインの設定も選択肢になりえますが、このような融資は、キャッシュフローが黒字である必要があります。

ベンチャー・デットは、収益性よりも成長性を優先する企業向けに設計されているので、ベンチャー・デットの担当者は、VCの後ろ盾がない企業に融資するリスクよりも、信頼できるVCの立場を踏襲しようと考えます。

エンジェル投資家とは異なり、ほとんどのVCは通常、複数のラウンドにまたがって投資するために、追加投資の資本を準備しています。そのためベンチャー・デットは通常、シードステージのスタートアップは利用できません

エンジェル投資家の支援を受けて融資を受けたとしても、シード・ステージで多額の負債を抱えるのは、その後のラウンドでも相当額の資金調達が必要な場合、最善とは言えないでしょう。VCは通常、調達資金を負債の返済に充てることを嫌がります。

「借金」のルールは「借金は返済する必要がある」ことです。事前に予測できないような都合の悪いタイミングで、返済を迫られることを覚悟する必要があります。

ベンチャー・デットの提供者

SVBは、スタートアップ向けのローンを作った最初の銀行です。これは、SVBがシリコンバレーに拠点を置き、シリコンバレーを取り巻くイノベーション経済に貢献するために進化してきたためです。この事実が、スタートアップの資金調達として「融資」を検討する上で大きな違いになります。

ほとんどの銀行はベンチャー・デットを真に理解していません。多くの金融機関がベンチャー・デットを提供していますが、まずその金融機関が長期的な提供者であることを確認してください。というのも、その金融機関がベンチャー・デット事業からの撤退を決めると、あなたのビジネスに大打撃を与える可能性があるためです。

適切な銀行パートナーを見極めることで、さまざまなメリットが生まれる可能性があります。イノベーション・エコノミーに重点を置く銀行は、投資家によるサポートを補完するために、スタートアップ視点での財務アドバイスや投資・決済ソリューション、業界の情報や、ネットワーキング支援を提供できます。また、経験豊富な銀行は、スタートアップに組織的なリソースを提供することができ、場合によっては、財務パートナーがあなたのビジネスの積極的な支持者になる可能性もあります。

銀行は歴史的に、利回りよりも財務制限条項やそのストラクチャーを重視し、最大融資額にさまざまな制限を設けてきました。ベンチャー・デットでは、通常、事業者が資産を担保として貸し手に提供することで担保が確保され、貸し手は、借り手がローン契約に違反した場合に適用できる強力な法的救済措置を持っています。ベンチャー・デットという選択肢を選ぶにせよ、融資は一回限りの取引ではなく、関係性の始まりです。

ベンチャー・デットとは、業績に対する保険、低コストでのランウェイ(企業がキャッシュ不足に陥るまでの残存期間)の延長、買収や資本支出、在庫の資金調達、あるいは次の株式ラウンドへの短期的な橋渡し(ブリッジ)として利用されることがあります。ベンチャー・デットの調達の前に、取締役会、特にVCと様々な選択肢について話し合うべきです。なぜなら、彼らはベンチャー・デットの利用について広い視野を持ち、提供者を紹介をすることができるからです。

貸し手が考える、融資のタイプの考え方

ベンチャー・デットとは、ベンチャー・キャピタルが誕生して間もなく誕生した、異なるタイプのローンです。ベンチャー・デットでは、企業がベンチャー・キャピタルにアクセスすることが、ローンの主要な返済原資となります。ベンチャー・デットでは、過去のキャッシュフローや運転資本資産に注目するのではなく、企業の成長資金や借入金返済のための追加の株式の調達能力を重視します。

ほとんどのベンチャー・デットでは、成長資金のためのターム・ローンという形式をとっています。これらの融資は通常3〜4年以内に返済しなければなりません。しかし多くの場合、最初に6〜12か月に利息だけを支払う期間(I/O: Interest Only)が設けられます。I/O期間中、会社は未払い利息を支払いますが、元本は返済しません。I/O期間が終了すると、会社はローン元本の返済を開始します。I/O期間の長さと融資の実行条件は、交渉の重要なポイントになります。

創業者や経営陣の希薄化を抑えることがベンチャー・デットの価値提案の中心であるため、ベンチャー・デットの担当者は、希薄化が強力なインセンティブになることを強く意識しています。資本へのアクセスが主要な返済原資であるため、ベンチャー・デットの提供者は、投資家と同様の視点で、次のような観点で企業を評価します。

  • 追加エクイティは必要なのか?
  • 次のラウンドの評価に影響を与える指標は何か?
  • どのようなレベルの業績が、希薄化なしでの資本調達に相関するのか?

貸し手は、企業のバーンレート(企業が現金を失うスピード)と流動性を注意深く観察し、その結果、企業がキャッシュ不足に陥るまでの残存期間(しばしばランウェイと呼ばれる)を決定します。次の資金調達のためのマイルストーンを達成するのに十分な勢いと流動性がある企業は、外部投資家から必要以上に希薄化しない次ラウンドの投資条件を引き寄せる可能性が高くなります。このどちらかが不足している企業は、新たなリード投資家の獲得に苦労する可能性が高く、資金調達を継続するために、内部主導で、場合によっては大きく希薄化するラウンドに頼らざるを得ないでしょう。

これらの要素を組み合わせることで、ベンチャー・デットの担当者が考える方法で、あなたの会社を見ることができます。

投資家が誰なのか、投資家はどのような指標で会社の進捗を測っているのか、どの程度の進捗があれば株主資本を希薄化せずに利用できる確率が高くなるのか、業績のマイルストーンに関連して会社がいつ流動性に乏しくなるのか。これらがポイントになります。

交渉の方法

会社の評判は、とても価値があるものです。VC業界は関係性を重視しています。これはデットとエクイティのどちらの調達にも当てはまります。VCが支援する企業の多くは、一連のエクイティとデット・ファイナンスを経て成長し、結果として複数のラウンドからなるゲームを進めています。各ラウンドのベンチャー・デット交渉では、エクイティと同様に、最高の取引条件を得ることと、最高の関係性を得られるパートナーを得ることの間で、揺れ動くことになります。すべてのローンのすべての条件を最適化したいという欲求は、長期にわたってより大きな戦略やパフォーマンスの柔軟性を提供する貸し手と提携することの利点と、バランスを取る必要があります。

しばしば、どちらの特性がより高いかを示唆する手がかりがあります。例えば、交渉がタームシートから最終的なローン文書に移行する際に、重要な取引条件を変更する貸し手には特に注意する必要があります。取引条件の変更は、勝者総取り、契約中心の考え方が、その貸し手の標準的な考え方であることを示す良い兆候です。

逆に、良好な関係を重視した場合、すべての取引条件で最も有利な条件を得ることはできないかもしれません。その代わり、貸し手が、時間とともに業績や戦略に影響を与える浮き沈みに積極的に対応してくれることを期待することになります。融資の規模や仕組みは、事業のニーズや戦略と合致している必要があるため、取引条件が重要でないことを意味するわけではありません。しかし、パートナーシップを重視する貸し手は、あなたの会社と投資家の両方に対して、柔軟で長期的な戦略を立てることを重視します。

「仲間を大切にする」ことが大切です。ベンチャー業界では、あらゆるところにリスクが潜んでいるため、この格言はピッタリと言えるでしょう。ダイナミックな環境とスタートアップの高い失敗率を考えると、予測可能性は、起業家が重要なビジネス・パートナーに求めるべき主要な特性の1つです。アーリーステージのビジネスプランに記載された正確な戦略と資本計画を実際に実行できるスタートアップは、ほとんどいません。つまり透明性と予測可能性は、ベンチャー・デットの融資提供者を探す上で、最も重要なポイントになるでしょう。


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