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関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

PitchBook記事によると、スタートアップやVCが、Silicon Valley Bank(SVB)へ預金の一部を戻す動きを推進しているようです。

Early-stage founders aren't writing off SVB 2.0 quite yet | PitchBook

What do you do if you're a seed-stage company and no big bank wants your money? For some founders, the answer is still SVB.


主な理由は以下の4つです。

  • SVBからの融資条件である「SVBに預金する」を遵守するため
  • 大手銀行が、少額(1000万ドル未満)の口座開設を渋っているため
  • SVBのスタートアップ向けサービスが、他の銀行では得られない
  • 預金の分散のため

預金全額保護で見直されるSVBのスタートアップ厚遇

SVB破綻の引き金になった3月9日の取り付け騒ぎでは「緊急避難」として預金を引き出したスタートアップも、SVBの預金の全額保護が米国政府から発表された後は、SVBからの融資条件である預金義務を遵守する方向で動いているようです。

3月14日には、Lightspeed、General Catalyst、Upfront Ventures、Bessemer Venture Partnersなどの著名なVC数社が「全資産の50%をSVBに戻すことを推奨する」とアナウンスしました。

実際、SVBでは、シード・ステージのスタートアップのような小口の法人でもMMF(マネー・マーケット・ファンド)の金利を厚遇するなど、スタートアップ向けのサービスが手厚いため、預金が全額保護されることが分かった今、スタートアップにとって魅力的な銀行サービスを提供する銀行と、スタートアップやそのVCに再認識され始めているようです。

大手銀行は小口の法人口座を好まない

もっとも、こうした「SVB礼賛」の裏には、これまでのSVBによるスタートアップ・エコシステムへの貢献に感謝する、という建前だけではない事情もありそうです。

例えば、スタートアップが大手銀行で法人口座を作るのに苦しんでいるという話が聞かれました。

別の記事でも書きましたが、たとえ口座が開けても、大手銀行のオンライン・サービスは使い勝手があまり良くないこともあり、専用の行員がつかず、自社のリソースも限られるスタートアップには、通常業務として使うには荷が重いのも事実です(銀行口座が使えなくなるインパクト 〜 Silicon Valley Bank破綻で見えてきたリスクとFintech系ネオバンク)。

そのためスタートアップは今後、SVBを買収する銀行が、SVBのスタートアップ向け金融サービスを止めないことを祈りつつSVBにとどまるか、BrexMercuryといったネオバンクに流れていくことが予想されます。

ネオバンクはここ5年ほどで台頭したFintech系スタートアップで、自身は振込などの銀行サービスを使いやすくするサービスなどの提供に特化し、預金は複数の「預金補償される」銀行に分散することで、リスク回避も可能なサービスです。

スタートアップ向けの銀行サービスの将来性

SVBの買い手を探すオークション(競売)は、初回で買い手が決まりませんでした。スタートアップに特化した銀行に将来性を見出す買い手が現れるかどうかが、スタートアップ・エコシステムにとって大きな関心事です。

もし買い手が現れたとしても、そのときにSVBの最もユニークなサービスであるベンチャー・デット(スタートアップ向けの融資)がどうなるのか。スタートアップ・エコシステムにとっては、こちらも大きな関心です。

今後の記事では、SVBのベンチャー・デットの仕組みを読み解きながら、今後のベンチャー・デットの行方を分析してみたいと思います(3月23日更新: SVBのベンチャー・デットの記事を公開しました: VCの存在が重要!? Silicon Valley Bankの「ベンチャー・デット(スタートアップ向け融資)」の仕組み

Silicon Valley Bank関連の他の記事は、以下のリンクから読めます(破綻とは関係ない記事も含みます)