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関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

最近、日米で「IoT製品のサポート終了」がちょっとした話題のようです(IoT=Internet of Things)。

米国でグーグルのグループ会社である米Nest Labs社が2014年に買収したスマートホームのハブ製品「Revolv」の製品サポートが終了になったという話から始めましょう。

Revolvを開発・販売していた2012年創業の米Revolv社は、コロラド州ボルダーのスタートアップです。ボルダーは日本では、あまり馴染みのない都市かもしれませんが、有名なアクセラレーターTechstarsが始まったITスタートアップの集積地で、Revolv社もTechstars Boulder 2012の卒業生です(当時の社名はMobiplug)。その後、Techstarsの共同創業者の一人、Brad Feld氏が率いる著名VC、Foundry Groupがリード投資家としてRevolv社に関わっていました。

* Revolvのスマートホーム・ハブ。5月15日以降は使えなくなる
revolv

Revolvは当時、盛り上がっていた「スマートホーム・ハブ」製品の一つ。家庭にある複数のIoT製品を集中管理するためのもので、他にもニューヨークのスタートアップ、米Quirky社がハブ製品「Wink」をリリースし注目を浴び、サムスンがシリコンバレーのスタートアップである米SmartThings社を買収したのも2014年でした。

米NestはRevolvの買収を「人材のため」と公言し、買収直後にRevolv社の製品販売を中止していましたが、製品を利用し続けることができるように、クラウドでの機能提供や製品サポートは継続していました。ところが今年2月になってサイト上で「5月15日でサポートを打ち切り、その後はRevolv社の製品を使ったIoT製品のコントロールはできなくなる」と発表。かねてから米Nestは業績不振ではないかとの観測があったため、コスト削減の一環ではないかと見られています。

(余談ですが、現在のホームハブの最右翼は、個人的には米AmazonのEchoではないかと思っています。他のホームハブ製品はあまり振るわず、例えばWinkはQuirky社の倒産に伴って昨年11月にFlextronics社に売却されました)。

* Amazon Echoは、使うためにまず「Alexa」と呼びかけ、次に音声で指示を出す
Amazon Echo

継続的な利用には継続的なサポートが必要

一般的にハードウェア製品は「一度買ったら、後はお金がかからない」というのが消費者の認識で、実際に継続利用のために追加料金を払う必要はほとんどありませんでした。

この常識を覆したのがパソコンやソフトウェアの登場です。パソコンはOSを定期的にアップグレードすることを前提とするようになり、ユーザーは自分の判断で新しいOSを購入するようになりました。その後、ソフトウェアも「売り切り/買い切り」を前提とした販売システムから、一定期間の利用権を売買する「サブスクリプション(購読)」へと徐々に切り替わってきました。

またウェブサービスやスマホのアプリのように、サービスが終了して使えなくなる、ということも起きるようになりました。購入したアプリを起動しても「サービスは終了しました」と表示されて、アプリが使えないという経験をした人も少なくないと思います。

IoT製品は一般的に、ハードウェア製品単体ではなく、サービス提供者がIoT製品を動かすためのクラウド・サービスを動かしています。そのため、クラウド・サービスが「サービス提供を終了」してしまうと、いくらハードウェア製品に問題がなくても、ユーザーにとっては「宝の持ち腐れ」という状況が発生してしまうわけです。

スタンドアロンで動かすソリューションは必要か?

この問題は、必ずしもIoT製品が本質的に抱える問題点ではありません。これはIoT製品が提供するサービスの「設計思想」による問題です。

前提になっているのは、インターネット接続性の高さと、クラウド・サービスの高い可用性と運用の低コスト性などです。分かりやすい例としては、IoT製品では高度な処理やデータの蓄積はせずに、データをクラウド・サービス側に送って処理することで、IoT製品のハード単価を抑えることや、サービス内容の修正や新機能の追加をクラウド・サービス上のみで実施できるようにすることで、IoT製品に対する複雑な作業を抑制してユーザー・サポートのコストを低減することなどが挙げられます。

例えばIoT製品のハード側に、従来であればクラウド・サービス側に置いていた機能を持たせるように設計することで、初期コストは上がってしまうものの、クラウド・サービスを前提としないスタンドアロン型のサービス設計にすることは可能です。高付加価値サービスを有償(サブスクリプション型)にして、有償サービスの部分をクラウド・サービスで実現することで、有償サービスの売上不振によるサービス中止のリスクを、スタンドアロン側のサービスで担保する、という方法も、ソリューションの一つとして考えられるかもしれません。

グローバル市場におけるサービス設計

IoT製品のグローバル展開を考えた場合、インターネット接続が高価な場所や、常時インターネット接続が難しい場所というのが、日本や米国と異なることも考慮しなければいけません。

例えば、東京では地下鉄の駅間では長らくネット接続ができませんでしたが、スマートフォンの普及などを後押しに、2012年ごろに一気にネット接続が可能になりました。今でこそ、スマホゲームはネット常時接続を前提とした設計になっていますが、たった5年前には、そのようなサービス設計では多くの通勤・通学ユーザーが利用できないことになってしまったわけです(参考:「地下鉄でスマホ」続々、東京メトロは4路線追加

私が住むニューヨークは地下鉄網が発達しており、通勤・通学の主要な移動手段ですが、いまだに駅間だけでなく、駅構内でも携帯の電波がまったく利用できないところが少なくありません。地下鉄内ではスマホゲームに興じる人が少なくありませんが、多くがスタンドアロンで動作する「Candy Crush Saga」をプレイしており、私もパズドラやモンストを諦めて、Candy Crush Sagaをインストールしたものです(同じ体験をしているのは私だけではありません! 「落ちゲー「Candy Crush Saga」が教えてくれた、日本の鎖国状態」)

IoT製品のサポート打ち切りは、「IoTブーム」が一区切りした今、徐々に顕在化していくでしょう。大手調査・コンサルティング会社のガートナーが毎年発表する「Hype Cycle for Emerging Technologies」の2015年版で、IoTを最初のピークを過ぎた辺りにプロットし、今後の数年は過剰な期待から来る反動による「幻滅期」に入ると見ています。

* 2015年版のガートナーのハイプサイクル。IoTは期待のピーク期から徐々に幻滅期に入ると見られている(出典: Gartner
Gartner's 2015 Hype Cycle for Emerging Technologies

一方で、こうした時期は、その技術を活用した製品やサービスがじっくりと仕込まれる時期でもあります。IoT製品が生活に浸透していく過程で、インフラやプラットフォームの進化やユーザーニーズの変化にあわせて、より多様なサービスが登場するでしょう。