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関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

新年あけましておめでとうございます。2015年にニューヨークでFabFoundryを立ち上げてから、早くも1年半が経ちました。今日は新年のご挨拶を兼ねまして現在、私がニューヨークで取り組んでいる事業について3回に分けてお話させていただきます。

日米で15年以上の経営経験を持つ6名

FabFoundry(本社ニューヨーク、以下当社)は、米国のハードウェアスタートアップと日本の製造業をつなぐプラットフォームを提供しています。現在のチームは常勤・非常勤あわせて8名で、主要メンバーは日本や米国で15年以上の経営経験を持っています。

当社は、ハードウェアスタートアップが陥りがちな「製造」や「量産」といった問題を解決する各種サービスを、当社が運営するオンラインおよびオフラインのプラットフォーム上で提供します。事業概要についてはこちらをご参照ください(FabFoundryって何?パート3

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米国ハードウェア・スタートアップを日本の製造業とつなぐ

クラウドファンディング人気の裏で発生する深刻な「納期遅れ」問題

米国ではKickstarterやIndiegogoなどのクラウドファンディングサービスでお金を集め、製品を提供するハードウェアスタートアップが増えています。例えばクラウドファンディング最大手Kickstarterが2015年にハードウェア関連(「Technology」と「Design」のカテゴリー)で資金集めに成功したプロジェクトの総額は、なんと約3億2000万ドルにのぼります。

日本円にして数億円単位の資金調達に成功するプロジェクトも珍しくありません。それまで資金不足を理由に事業化を諦めてきた個人やスタートアップが、プロトタイプ(試作品)の段階で資金を得られ製品化に乗り出せるとあって、もはやハードウェアスタートアップになくてはならないサービスになっています。しかし、こうした成功の裏で、自社で設定した配送期日を守れない「納期遅れ」が深刻な問題となっています。

2015年にKickstarterが公開した資料によると、資金調達に成功したプロジェクトのうち、65%のプロジェクトでしか、出資者が「納期はちゃんと守られた」「守られた」と感じなかったそうです。Kickstarterはプロジェクトを公開する前に精査することで、「製品が届かない」という事態を避けようと努力していますが、それでも「資金が集まった」プロジェクトでさえ、3分の1以上で、納期が守られないというのは、何か根本的な問題があるに違いありません。

私が過去、数年の間にクラウドファンディングサービスで購入した13製品のうち予定日通り届いたのはソニーのMESHだけ。他は平均的には3か月程度の遅れですが、予定より1年以上遅れているものも3製品あります。そもそも約半分の5製品は、まだ届いておらず、いつ届くのかも分かりません。

届いていない製品で最も高価なものは、2015年の最大のクラウドファンディングと言われた「Glowforge」で、4000ドル以上支払ったにもかかわらず、当初の納期を1年こえても、まだ届く気配がありません。

いかに多くの製品が期日通りに届いていないかが、お分かりいただけるかと思います。

ハードウェアスタートアップがなぜ、こうした事態に陥りがちなのか。そこには、彼らの「量産」に対する経験と知識の不足があるからだと考えられます。

「プロトタイプ作り」と「量産」は全く別の知識・スキルを要する

たとえば、1万人がクラウドファンディングサービスを通じて製品を購入したいと手を挙げたとします。「予想よりも多くの人が購入を希望してくれて、多くの資金を調達できた。量産には少し時間がかかってしまうかもしれないけれど、『プロトタイプ(試作品)』があるのだから、工場に持っていけば、すぐに1万個ぐらい作れるだろう」。失敗するスタートアップはこう考えます。

実際には、1万個もの製品を、同じクオリティで、納期に間に合わせて作るのは容易ではありません。工場の選定、必要な数の部品の調達、機械の選定、納期を守るためのプロジェクト管理、製造が終わった後の検品......こうしたさまざまな工程を、スケジュール通りにこなさなくてはならないからです。

ユーザーを惹きつける1個の「プロトタイプ作り」と、工場で1万個作る「量産」は全く別の知識、スキルを必要とします。しかしクラウドファンディングを利用する多くの米国ハードウェアスタートアップはこれを理解しておらず、結果として深刻な「納期遅れ」を引き起こしているのです。

当社は、このような「製造」や「量産」をはじめとするハードウェアスタートアップが抱える問題を、経験豊富な日本の「製造エキスパート」が支援することで解決できると考え、米国のハードウェアスタートアップと日本の製造業をつなぐプラットフォームを提供します。プラットフォーム上で提供する具体的なサービス内容については、当シリーズの第3回をご覧ください(FabFoundryって何?パート3)。

クラウドファンディングやハードウェアスタートアップへの信頼が損なわれないようしたい

クラウドファンディングサービスは、ハードウェアスタートアップが成功できるかを占う「登竜門」的なサービスとして人気を集めていますが、「買ったものがちゃんと届かない」事態が常態化してしまうと、プロジェクトを支援してくれるユーザーの間で疑念が広がり、利用されなくなるかもしれません。

せっかくハードウェアスタートアップに開かれた新しい道が閉ざされないよう、彼らが苦手とする量産・製造をサポートすることで、スタートアップが成長軌道に乗るための土台を整えていきたいと考えています。


FabFoundryって何?シリーズ