2023年1月18日、「The State of the French Tech Ecosystem 2022」というブログ記事が、148ページにも及ぶ調査資料とともに公開されました。
伸長著しいと言われるフランスの技術系スタートアップの状況を網羅したこの資料には「多くのフランスのスタートアップは2022年に買収された。しかし5000万ユーロ(約60億円)を超えるスタートアップM&Aは、引き続き稀な状況」と記されており、米国出身でフランス在住のベンチャーキャピタリストであるMichael Jackson氏は「フランスはExit面とディープテック分野では、まだかなり弱い」との見解を示しました。
経済規模6割のフランスが、日本の2倍近いVC投資を集めている
一般にはあまり知られていませんが、フランスは近年、スタートアップ立国戦略を推進し、急成長しているスタートアップ大国です。
フランスはGDPは日本の6割程度ですが、スタートアップ投資では日本を大きく凌駕しています。2022年にはドイツを抜き、英国に次ぐヨーロッパで2番目になる115億ユーロ(日本円で約1兆6000億円)の投資額を誇りました(2022 The State of The French Tech Ecosystem の18ページ目)。
フランスのスタートアップ投資は、ここ5年で5.5倍に成長しているのに対して、日本は2022年に過去最高の8774億円(INITIAL調べ)のスタートアップ投資を集めました。しかしGDPでは6割程度しかないフランスの半分強に過ぎません。
その結果、フランスでは企業評価額が1000億円以上の未上場企業、いわゆる「ユニコーン」が30社弱まで増えています。
日本のスタートアップ政策のお手本ですが…
そんなフランスのスタートアップ支援制度「La French Tech(フレンチ・テック)」が始まって今年で10年。この「フレンチ・テック」をお手本の一つとしたのが、スタートアップに「国がお墨付きを与える」制度である「J-Startup」です。
フランスはヨーロッパ諸国の中でも、工芸や製造業が強い国の一つであり、経済閣僚だったEmmanuel Macron氏がフランスの大統領になる前後から、スタートアップ推進政策が強化されていました。
それでも前述のJackson氏は「フランスは、Exitが相対的に弱い。次のような構造的な問題を抱えているからだ」と指摘します。「まずフランス企業はあまりM&Aをしないし、公共市場が浅い。また労働法や税制が、海外からの買収者を遠ざけている」。
フランスの2022年のExit件数は365件と前年から微減ですが、Exitに伴う金額は2021年の半分以下の48億ユーロにとどまりました。
2022年のユーロネクスト・パリでの上場数は53なので、80%以上のExitが買収だったと見られます。しかし少なくない買収が、他の国へ進出する際や、製品ラインナップを強化するための、スタートアップ同士のM&Aであると、本調査は説明しています。
つまり大企業によるスタートアップのM&Aが少なく、その結果として買収額が小粒になっているというわけです。
フレンチ・テック企業には、ハードウェアやディープテックなど、多数の非SaaSスタートアップがあります。日本が先行するフレンチ・テックに学べることの一つは、スタートアップのExit環境の整備と言えるのではないでしょうか。