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関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

多くの創業者と投資家が知りたいトレンドの一つが、資金調達における持株比率の希薄化率でしょう。ここでは既存株主と投資家の利益相反が色濃く浮かび上がってきます。

とはいえ、投資家は一般的には、あまり大きなシェアを取らないように気をつけます。創業者(や社員)の持株比率が低くなりすぎると、会社を大きくするインセンティブが低下してしまい、会社が成功する確率が低くなるからです。

私がベンチマークとして使っていた希薄化率は、シード・ラウンドで20%、シリーズAで25%、というものでした。

しかし、最近は、希薄化率が低下(スタートアップに有利)のトレンドが進んでおり、これは投資家有利になった2022年の後半になっても続いているといることが、スタートアップの資金調達・株式まわりをサービスを手がける米Cartaの調査で分かりました。

出所: State of Private Markets: Q4 and 2022 in review

2022年第4四半期の数字は、シード・ラウンドで18.6%、シリーズAで16.9%、というもので、この1年半は、シリーズAの方が希薄化率が低い、という結果になっています。

2020年から2022年前半まで、シード・ラウンドからシリーズDの資金調達まで、ほぼ一貫して希薄化率が抑えられているのは、空前のスタートアップ・ブームと、大量に流れ込んだ資金によるものなのは想像に難くありません。

しかし2022年後半になり、一気に投資家有利な状況になっているにも関わらず、希薄化率は継続して下がっています。

これは、投資家有利な条件、特にダウンサイド・リスクをヘッジするような条件がついているかわりに、ダウン・ラウンドを回避したり、過度な希薄化を進めないことで、創業者をはじめとするスタートアップの士気を保つためなのではないかと想像できます。

Cartaの調査では、もう一つの可能性として、ブリッジ・ラウンドの増加を上げています。

出所: State of Private Markets: Q4 and 2022 in review

ブリッジ・ラウンドとは、通常の資金調達ラウンド(シードやシリーズAのようなラウンド)の間に行う、「つなぎ融資」的なものです。通常の資金調達では、株価を決めて第三者割当増資をするので、株価がつくラウンドということで「プライス・ラウンド」などと呼ばれます。これに対してブリッジ・ラウンドは一般的に株価をつけずに、コンバーチブル・ノート(転換社債のようなもの)などで調達します。こうした資金は、次のプライス・ラウンドで、株式に転換されますが、そのときにはリスクを負って提供した見返りとして、次のラウンドの株価より割安に買える権利(いわゆるディスカウント)などが得られます。

上記のブリッジ・ラウンドの推移を見ると、例えばシリーズA後の資金調達がブリッジ・ラウンドになった割合は、2022年第4四半期では35%に達しています。資金調達事情が良かった2021年第2四半期は15%強ですから、すんなりとシリーズBラウンドで調達できず、ブリッジ・ラウンドで凌いでいることが見て取れます。

つまり投資家有利な市況のため、希薄化率が高くなりそうな資金調達は避けて、ブリッジ・ラウンドで調達した資金で、次のラウンドに進めるような実績を上げることを、多くのスタートアップが選択しているという予想です。

こうしたブリッジ・ラウンドと並行して、デット(負債)・ファイナンスによる借り入れを実施するスタートアップも増えています。特にコロナ禍が発生した2020年以降、米国でも政策金利が極めて低い水準になっており、スタートアップによる借り入れ、いわゆるベンチャー・デットが普及しました。借り入れは金利を支払う必要があるものの、株式の希薄化が防げるため、金利が低い水準のときには、株式による資金調達よりコストが低い資金調達手段として考えることが可能です。

特にカリフォルニアのリージョナル・バンクである米Silicon Valley Bankは、ベンチャー・デットに積極的です。

一方で、安易な借り入れで、その後の資金調達に苦労するスタートアップが後をたたないのも事実で、多くの投資家が「安易な借り入れ」に警鐘を鳴らしているのも事実です。


3月10日更新: ベンチャー・デットに積極的で、シリコンバレーの多くのスタートアップの銀行口座を持っているSilicon Valley Bank(SVB)が3月10日に経営破綻し、預金封鎖されてしまいました。ベンチャー・デットに積極的だったSVBの破綻で、スタートアップの資金調達の環境も変わる可能性が出てきました。