「18か月分では次の調達まで足りない」 ― 資金調達のニュー・ノーマルが明らかに
2023年03月06日
Entrepreneurship ,Current Topics ,Monozukuri Ventures ,Carta
スタートアップは経営のスピードを重視するため、足りない資金を外部から調達するのが一般的です。ただし資金調達の交渉は、経営陣の時間を奪うので、頻繁に行うことは経営にとってマイナスです。一方で、必要以上に資金調達をしすぎると、既存株主の持株比率が必要以上に低下することで事業成功への士気が低下するとともに、倒産のプレッシャーから来る、良い意味の緊張感が低下してしまいます。
そこで、18か月から24か月(1年半から2年)のランウェイ(資金枯渇までの期間)を設定し、必要な資金を投資家から調達するのが一般的と言われていました。
しかし現実は、シードからシリーズCに至るアーリー・ステージ期の資金調達は、平均で26か月から29か月程度かかっていることが、スタートアップの資金調達・株式まわりをサービスを手がける米Cartaの調査から分かりました。
資金調達の交渉が長期化?
このグラフでは「シードからシリーズA(白色の折れ線)」「シリーズAからシリーズB(橙色の折れ線)」「シリーズBからシリーズC(緑色の折れ線)」が、2018年から2022年の5年間の推移を見ることができます(数字は平均値で、中間値でないことに注意)。
この5年間の推移を見ると、ほぼ一貫して「シリーズAからシリーズB(橙色の折れ線)」の期間が一番、長くなっており、特に2022年は第1四半期に25か月弱だったのが、第4四半期には29か月弱まで延びています。
一方、「シードからシリーズA(白色の折れ線)」は、18か月から24か月の間を推移していましたが、2022年になり24か月を超えはじめ、2022年第4四半期には798日(26か月弱)を記録しています。
シードからシリーズAの間は、一般的に「プロダクト・マーケット・フィット(PMF)」を達成する期間と言われています。現実には、多くのスタートアップがPMFを達成できず、シリーズAの資金調達ができずに消えていきます。
少し古いデータになりますが、シードの資金調達に成功しながら、シリーズAの資金調達を出来ずに退場するスタートアップは、約8割に達します(Dissecting startup failure rates by stageによる。1990年から2010年までのデータを基に作成された)。
逆に、PMFを達成したスタートアップは、成長を加速させるためにシリーズAの資金調達を実施します。シリーズAまでは、どちらかというとスタートアップがPMFを達成するための実行力(Execution)が問われますが、シリーズA以降は、市場の中で勝ち残る競争力が問われます。そのため、シリーズAでは、スピードを重視し、資金調達までの期間が短くなっていると思われます(同時に、株の希薄化が最も進むラウンドでもあります)。
では、なぜ資金調達までの期間が延びたのでしょう。複合的な要因があると思われますが、次のような流れではないでしょうか。
- インフレの影響で、売上の成長にブレーキがかかった(B2Cが先に影響を受けるが、徐々にB2Bにも浸透)
- 期待はずれのSPAC上場や、利上げの影響で株式市場が低迷し、投資家が株式投資に回す資金が減少した
- 株式市場の影響を受けやすいレイター・ステージのスタートアップが、資金調達に苦労し始めた
- VCが、アーリー・ステージのスタートアップに対しても、慎重な投資姿勢になった
- 暗号資産系ユニコーンFTX社の破綻で、VCのデュー・デリジェンス(DD)に対して厳しい目が向けられるようになった
画像生成のStable Diffusionや対話型AIのChatGPTなどジェネレーティブ人工知能(生成系AI)が話題になり、VC投資の水準もシード・ステージでは2022年12月で底を打ったようです(【米国VC投資額レポート: 2023年1月】シード投資は底打ち感、シリーズA以降は引き続き低調)。
しかし資金調達に関しては、引き続き厳しい状況が続きそうです。これからのスタートアップは「30か月のランウェイ」を意識していく必要がありそうです。