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関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

ChatGPTが昨年11月に公開されて以来、私の周りではGenerative AI(生成AIなどと訳されているようです)の話題で持ちきりです。

実際、AI系スタートアップには急速に資金が流れ込んでいます。米Pitchbookによると、2023年第1四半期に発表された、生成AIスタートアップへの投資額は123.7億ドルに上ります(払込が完了していない出資を含む)。

2023年第1四半期における生成AIへのVC出資状況。出所: Pitchbook

米Microsoftが米OpenAIに出資する100億ドルを除いても、23.7億ドルは、2022年第4四半期の7.3億ドルの3倍強の数字です。

これは「AIのゴールドラッシュ」が始まった、と言っても過言ではない状況でしょう。

「ChatGPT」が日本を駆け巡る

生成AIが話題になり始めたのは、Stable Diffusionを使った画像生成アプリが出てきた昨年の夏ごろです。実際、こうしたアプリを使った画像生成は、低価格で気軽に試せることもあり、最近では、生成した画像を使ったマンガなども出版されているようです(世界初、画像生成AIで描かれたフルカラーコミック『サイバーパンク桃太郎』ついにコミックス発売!)。

そこで話題になり始めた時期をGoogle Trendsで調べてみると、米国も日本も「Stable Diffusion」については、ほぼ同じタイミングで急速に話題になっていることが分かります。

日本における「Stable Diffusion」の検索ボリュームの推移。出所: Google Trends

米国における「Stable Diffusion」の検索ボリュームの推移。出所: Google Trends

しかし対話型の「ChatGPT」のインパクトは、それを遥かに凌駕しました。「GPT」という覚えにくい略語にも関わらず、日本では「NHK」の3分の2ほどまで検索回数が急増しています。

日本における検索ボリュームの比較。青が「Stable Diffusion」、赤が「Chatter」、黄が「NHK」。出所: Google Trends


3か月で123.7億ドルが生成AIに

2023年になって米国では、まさに「ゴールドラッシュ」と呼ぶにふさわしいほど、生成AIへの資金投入の流れは加速しています。

1月にMicrosoftが、ChatGPTの提供企業であるOpenAIに100億ドルを出資し、その後にMicrosoftが同社の製品であるOffice 365や、検索エンジンBingなどに、GPTのテクノロジーを適用し始めているのは多くのメディアでも報道されました。

生成AIをターゲットにしたVCマネーは、設立ほやほやのスタートアップにも投入されています。

設立1年のAdept AIが3月にGeneral CatalystとSpark Capitalのリードで3億5000万ドルを集めてユニコーンの仲間入りしました。ChatGPTと競合するCharacter.aiも、2021年設立のスタートアップながら、Andreessen Horowitzから1億5000万ドルを調達し、ユニコーン企業になりました。

またBusiness Insider誌によると、老舗アクセラレーターY Combinatorの最新の2023年冬バッチでは、参加する282社中、生成AI系スタートアップが55社を占めたとのこと(There are more generative AI startups that are launching out of Y Combinator than ever before. Here are 55 of them)。

インフレやそれに伴う政策金利の上昇で、VCマネーはここ1年ほどで急速に収縮しています。しかし次の世代の「金の卵」として、AI、特に生成AIに取り組むスタートアップには、これからも多くの資本が投下されそうです。

Nvidiaは名実ともにAIチップ企業に

シリコンバレーがあるカリフォルニアを19世紀にわかせた「ゴールドラッシュ」をなぞらえて、スタートアップ界で話題沸騰になり資金と人が投入される状況を、ゴールドラッシュとよぶことがあります。そのときに合わせて出てくる寓話として「ゴールドラッシュで儲けたのは、金を掘った人ではなく、(金を掘るための)ツルハシを売った人だった」というものがあります。

最近の状況になぞらえると、2010年代にスマホ向けのアプリが群雄割拠しましたが、儲けたのはアプリの開発者ではなく、アプリを流通させるプラットフォームを作ったAppleとGoogleだった、というものでしょうか。

では、まさに始まりつつある生成AIのゴールドラッシュで、ツルハシの販売者となるのは、どの分野のどの企業になるのでしょうか。

最右翼の一つは、GPGPU(汎用計算用GPU)の最大手であるNvidia社でしょう。同社の直近の2023年会計年度(2023年1月末締)での決算で、AIなど汎用計算用途でのプロセッサの売上が、グラフィックス用途での売上を抜いたことが明らかになりました。

Nvidiaの決算情報などを元に作成

祖業であるGPUは2022年度をピークに2023年度は売上が減少していますが、GPGPUはこの3年間で年平均成長率69%で成長しており、名実ともに世界一のAIチップ企業となっています。

一方、4月18日には、Microsoftが独自のAIチップを開発中であるという報道がThe Information誌からありました(公式発表はなし)。

コロナ禍での半導体不足を受けて、主要国が半導体製造に多くの予算を充てている状況もあり、AI関連チップに関連する分野にも今後、VCマネーが流れ込んでいきそうです。またNvidiaやQualcommといったチップ企業、GoogleやMicrosoftといったAIに突き進むテック企業が、AI向けチップを開発するスタートアップをM&Aしていく状況が生まれそうです。

では、他の業界ではどうでしょう。生成AIを支えるテクノロジー業界については、今後もこのブログなどで追っていきたいと思います。