ニューヨークのハードウェア系スタートアップのハブであるNewlabは、2016年設立の、ハードウェア特化型のインキュベーション施設です。最寄りの地下鉄の駅まで20分前後かかるという交通の便の悪さもあり、気軽に行ける場所ではないにも関わらず、コロナ禍の前は、日本からひっきりなしに見学者が訪れていました(そして、単なる「見学」コースがないため、ご連絡をいただくこともしばしば)。
Newlabが位置するのはBrooklyn Navy Yard。日本語で「ブルックリン海軍工廠」と呼ばれる広大な敷地で(東京ドーム12個分の広さ)、1966年にニューヨーク市に売却されるまで、150年以上、海軍の造船工場として稼働してきたこの場所は、米国東海岸が「重工業」などハードウェアに強かった象徴と言えるかもしれません。
Newlabそのものはフランスを代表するテック・ハブであるStation Fの約4分の1の広さですが、Station Fの1年前にオープンしており、今では知る人ぞ知るニューヨークのスタートアップ・エコシステムの名所です。
もっともNewlabがオープンした2016年6月当時は、まだニューヨークのスタートアップ・エコシステムも立ち上がり始めたところで、VC投資も、ボストンを抜いて米国の都市で2番目になったものの、シリコンバレーとは雲泥の差。東京のある著名VCでも「ニューヨークは二軍。シリコンバレーに追いつくどころか、すぐに東京に抜かれますよ」という認識でした。
Newlabはハードウェアに強いスポンサーが欲しいということで日本企業にもアプローチしていましたが、2016年当時の日本企業は、上記のVC同様、シリコンバレー外のスタートアップ・エコシステムには全く興味を持っていなかったため、箸にも棒にもかからない状況でした。
しかし2019年ごろから、スタートアップ向けの施設を作る動きが日本の主要都市でも広がり、またNewlabもGoogle X(後のWaymo)出身のShaun Stewart氏がCEOに就任したことで、徐々に日本企業から注目を集めるようになりました。
コロナ禍になり、ニューヨークは世界最悪の感染と死亡者数で、ロックダウン(都市封鎖)され、誰もが自宅に籠もる生活を余儀なくされました。
しかしNewlabでは、社員や入居スタートアップがいち早くオフィスに戻り、ハードウェアのテック・ハブだから出来ることを実践すべく活動していました。
例えば不足していたPPE(個人防護具)を作ろうとフェイスシールドを作り始めるスタートアップや、足りない人工呼吸器の製造をするなどです(詳しくはNewlabがウェブサイトでまとめています: Newlab Members Turn Their Attention to COVID-19)
さらに、2020年5月には「Return To Work Studio」を立ち上げ、どうすれば安全に職場を開放し、従業員が戻れるかを研究し始めています。ハードウェアのデザインや製造は、リモートワークやビデオ会議だけでは完結しないためです。
このNewlabがコロナ禍前に立ち上げたベンチャー・スタジオ(スタートアップ・スタジオ)に、2021年からニューヨーク屈指のデザインスクールParsonsの大学院に通うShunichiro Tagoさんが合流されました。私の知る限り、初の日本人です。Tagoさんが最近、Substackで「Inside Out」というメディアをSubstackで立ち上げ、Newlabでの経験をシェアされています。
- Vol.1:Newlabの概要と歴史
- Vol.2:Venture Studioに入ることになった経緯
- Vol.3:Venture Studioでの仕事内容
- Vol.4:Newlabで得た学び - ハードテック × デザインの可能性 -
現在、第2回まで公開されています(4月8日に第3回が更新されました)。今後インサイダーならではの情報が出てくる期待して、Substackでメールの購読を開始しました。
今後の更新が楽しみです!