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関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

最近はハードウェア・スタートアップが積極的にHaaS(Hardware-as-a-Service)モデルに転換し、その動きを投資家も好感しています。しかし、HaaS企業の企業価値(Valuation)をどう見るのか?という問題に突き当たります。

そこで、まずはベンチマークとして、ソフトウェア・スタートアップの企業価値のトレンドを見てみたいと思います。

Redpoint VenturesLogan Bartlett氏が4月3日に公開した資料によると、未上場企業のARR(Annual Recurring Revenue。年間経常収益)に対するマルチプル(直近12か月のARRに対するマルチプル)において、上場企業とシリーズB/Cスタートアップの間に、過去にないレベルでの格差があることが分かります。

未上場企業のプレミアムは150%〜250%で推移してきたが、コロナ禍以降、2021年は325%、2022年は560%とひどく乖離している。出所: Market Overview AGM - Redpoint Ventures

高成長している上場SaaS企業、未上場SaaSスタートアップ(シリーズB/Cでの企業価値)ともに、2017年から2021年まで右肩あがりでマルチプルが上昇していますが、金融緩和で株式市場にお金が流れ込んだ2021年以降は、未上場SaaSスタートアップの「過熱」がはっきり分かります。

未上場SaaSスタートアップは、2021年には直近ARRの105倍、景気の調整が始まった2022年でも77倍のマルチプルをつけています。

これに対して、上場SaaS企業は、2021年は32倍まで一気に上昇したものの、2022年にはすぐに2018年のレベルである14倍まで調整されています。

もし今後、スタートアップのマルチプルが、2017年前後の水準まで調整されるとすると、高成長の有望SaaSスタートアップでも「20倍」を一つの目安に考える必要があるかもしれません。

実際、四半期ベースで見ると、マルチプルは急速に調整されています。

未上場SaaSスタートアップは2021年から2022年前半にかけて100倍前後のマルチプルをつけていたが、2023年に入って40倍を切った。出所: Market Overview AGM - Redpoint Ventures

2022年第2四半期に100倍をつけていたスタートアップのマルチプルは、一気に半減し、直近の2023年第1四半期は39倍まで急落しました。

2023年は引き続き「投資家有利」の状況が続くと見られていますので、高成長スタートアップでも、上場企業の2倍程度のプレミアムである「20倍」あたりを落とし所に資金調達をしつつ、「成長より収益性」へと舵を切っていくのではないかと予想されます(=企業価値はさらに下落方向に向かう)。

実際、より長期的なSaaS企業のマルチプルのトレンドを見ると、高成長の上場SaaS企業の企業価値は、その時点から向こう12か月(過去12か月でないことに注意)のARRの「6倍」に収斂しつつあるそうです(データは、84社の上場SaaS企業をもとに作成)。

出所: Market Overview AGM - Redpoint Ventures。Pitchbookのデータをもとに作成

今後は、HaaSスタートアップのARRマルチプルについても調査していきたいと思います。