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関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

いま私のLinkedInタイムラインで最も過熱している議論の一つが「最も事故率が高い自動車ブランドはTesla」です。知人でカーネギーメロン大学電気・コンピューター工学部のPhilip Koopman准教授LinkedInでの投稿には半日も経たないうちに250件以上のコメントが付き、本人も「返答がない=同意している、ではありません」とコメントしています(彼の研究テーマの一つは、自律走行車の安全性評価のため、多くのプロからコメントがついていました)。

この議論の発端は、融資関連のマーケットプレイスである米LendingTreeが今週はじめに公表した「Ram、Tesla、SUBARUは最悪の運転者、BMWは最も高い飲酒運転率(原文はRam, Tesla and Subaru Have the Worst Drivers, While BMW Drivers Have the Highest DUI Rates)」です。この記事では、2022年11月から1年間の、LendingTreeで自動車保険の見積データを基に、さまざまなランキングを出しています。

この記事は冒頭に総合的なランキングとして「最もインシデント率が高い自動車ブランドはRam(ピックアップ・トラックの代名詞的なブランド)、2位がTesla、3位がSUBARU」を挙げています。ここでの「インシデント」とは具体的には「事故、飲酒運転、スピード違反、交通違反」などになります。

Source: Ram, Tesla and Subaru Have the Worst Drivers, While BMW Drivers Have the Highest DUI Rates


そしてRamがワースト1位になった説明として「分析した4つのインシデントのそれぞれでトップ5に入った。運転者1000人当たりのスピード違反件数(4.42件)が、分析したすべてのブランドで最も多かった。事故(22.76件)と飲酒運転(1.72件)は2番目に多く、交通違反(8.00件)は5番目に多かった」と指摘。Ramを所有するドライバーの特徴を説明していました(個人的には、納得できる説明でした)。

そしてワースト2位のTeslaは「運転者1,000人当たりのインシデント数が31.13件でワースト2位。これは事故件数(23.54件)の多さによるもの」と説明されていました。ワースト3位であるSUBARUの「運転者1,000人当たりのインシデント数が30.09件」とあわせて、この3ブランドのみが、運転者1000人当たりのインシデント数が30件を上回っていました。

私の第一印象は、クルマ好き・運転好きな人が選んでいるクルマのブランドで、インシデントが多いのは、クルマに頻繁に乗っているからでは? というものでした。運転者当たりの数字であり、走行頻度や走行距離は、この統計に含まれていなかったからです。

ただ、このLendingTreeのレポートを受けて、いくつかのメディアがTeslaを狙い撃ちにした記事を出しています。インシデントのうち「事故」に絞った統計によると、Teslaがワースト1位になることと、最近のTeslaのリコール問題(オートパイロット機能に関連して200万台をリコール)を結びつけたものです。

(このリストは、日本語訳があったForbesのものと、冒頭のKoopman准教授が引用していた記事を載せただけで、選択にそれ以上の他意はありません。「Tesla Has The Highest Accident Rates」あたりで検索してみると多くの記事が出ます)

ただ基になったLendingTreeの記事では、このように説明されています。「特定のブランドが他より事故率が高い理由を特定するのは難しい。しかし、特定の車種が他の車種よりもリスクの高い運転者を惹きつける兆候はある」。

Ram、Tesla、SUBARUは最悪の運転者、BMWは最も高い飲酒運転率

「ミニバンを運転する人の多くは、高馬力の自動車で走り回ることよりも、子供たちを安全に街中を移動させることに関心があるようです」(LendingTree社の保険エキスパートRob Bhatt氏)。それでも彼は、「どのような自動車を運転するにせよ、運転中は責任を持つことが大切です」とアドバイスする。事故統計を見れば、スピード違反、機能障害、脇見運転が自動車事故の主な原因であることがわかります。これらはすべて自分でコントロールできる行動です。

最近はX(旧Twitter)での発言などから、Elon Musk氏の経営する他の会社やサービスに対して、政権やメディアからバッシングに近いトーンでの記事が増えています。少なくない記事やブログ、ソーシャルメディアでの投稿が、論理的というより感情的なトーンでなされている気がします。

今回の一連のメディア記事でも、そういった世論に乗った形で、因果関係がハッキリしないものを「ほのめかす」ように書いているものは少なくないように感じます。

確かに今回のTeslaの「最も事故率が高いブランド」というのは、ある観点からは正しいのです。しかし例えば「運転者1000人当たりでなく、走行距離当たりだったらどうだろうか」など、さまざまな視点での吟味が必要ではないでしょうか。

こうした感情的な議論の結果、自動運転などの大きなイノベーションがストップしてしまわないように祈るばかりです。