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関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

2026年が始まりました。

昨年12月、米国のベンチャーキャピタルAndreessen Horowitz(a16z)が、毎年恒例となっている翌年の予測「Big Ideas 2026」を発表しました。

今年は全部で47の予測があり、AI、インフラ、アプリケーション、バイオ、暗号資産など幅広い分野をカバーしています。

私はこの中から、製造業やディープテックとの関係が深い「American Dynamism」という領域に含まれる6つの予測に注目し、Monozukuri Innovation Institute(MII)で新年企画として3本の記事に分けて紹介しました。

Big Ideas 2026

最初の全体記事では、この3本を次のように整理しています。

工場、センサー、研究室、データ。

一見すると別々のテーマですが、3本を書き終えてみると、同じ方向を向いているように思えました。

AIを工場に導入するのではなく、工場そのものをつくり直す

第1部の「AIネイティブ製造業の台頭」では、まず「Building the AI-native industrial base」という考え方を取り上げました。

記事では、次のように書いています。

「過去を近代化するのではなく、次に来るものを構築する」

既存プロセスにAIを後付けするのではなく、AIを前提として産業プロセスをゼロから設計し直す。ヘンリー・フォード氏の「工場こそが製品だ」という思想が、AI×ロボティクスの時代に再定義されようとしています。

ここでいう「AIネイティブ」は、工場にAIを導入して生産効率を改善するという話とは少し違います。

製品の設計だけでなく、シミュレーション、製造、運用、自律システムまでを、最初からAIを使うことを前提に設計する。

記事では、その違いを次のように整理しました。

従来のアプローチは「既存の工場や設備にAIを導入して効率化する」というものでした。しかしAIネイティブな産業基盤では、製品だけでなく、工場、サプライチェーン、運用プロセスそのものをAI前提で設計します。

これは単なる「デジタル化」の延長ではありません。

そして、もう一つの予測「The renaissance of the American factory」で登場するのが「工場こそが製品」という考え方です。

製品そのものだけではなく、その製品をどうつくるのか。その生産システムそのものが競争力になるという話です。

TeslaやSpaceXなどを考えると分かりやすいでしょう。

新しい製品を設計するだけではなく、その製品を大量に、速く、低コストで生産するための工場まで設計する。製品と製造プロセスを別々のものとして考えないわけです。

しかし、第1部で面白かったのは、この話が工場だけでは終わらなかったことです。

AIから鉱物までが一つの「stack」になる

第1部で取り上げた3つ目の予測は、「The electro-industrial stack will move the world」でした。

記事では次のように紹介しています。

さらに、鉱物からソフトウェアまでを統合する「electro-industrial stack」が、物理世界を動かす新たな基盤となります。

一番上にあるのはAIやソフトウェアです。

その下にはモーターやアクチュエーターがあり、パワーエレクトロニクス、蓄電池、さらにその下には鉱物や材料があります。

これまでのソフトウェア産業とは、かなり違う構造です。

配車アプリであれば、ソフトウェアを更新すれば世界中のユーザーに新しい機能を届けられます。

しかし、自動運転車やロボットを100万台動かそうとすれば、100万台分のセンサー、半導体、モーター、電池などが必要になります。

第1部では、この変化について次のように書きました。

AIネイティブ製造、ロボティクス、先進材料、電動化。今回取り上げるトレンドは、いずれも日本の製造業が膨大なアセットと実績を蓄積してきた領域です。しかし、AIファーストでゼロから設計し直すという発想では、米国スタートアップが先行している可能性があります。

AIが物理世界へ出ていけばいくほど、AIから遠いと思われていた材料や部品、製造技術までが、逆に重要になってくるわけです。

物理世界が「見える」ようになる

翌日の第2部「物理世界の可視化革命:都市・インフラ・研究室が『見える』時代へ」では、少し違う方向から同じ変化を見ました。

ここで取り上げた一つ目の予測は、

The next wave of observability will be physical, not digital

というものでした。

Observability、日本語では「可観測性」と訳されます。

ソフトウェアの世界では、サーバーやクラウドの内部で何が起きているのかをログや各種データからリアルタイムに把握するための重要な考え方になっています。

それと同じことが、物理世界でも起きるという予測です。

第2部では、こう書いています。

デジタル世界で実現したリアルタイム可視化・自動化が、物理世界でも可能になります。米国では既に10億台以上のセンサーが配備され、都市・インフラ・工場の可観測性が飛躍的に向上しています。これがロボティクスの基盤となり、さらに自律的に「仮説→実験→分析」を繰り返す無人ラボを実現します。

都市、道路、工場、電力網、建物などには、すでに膨大な数のセンサーやカメラがあります。

しかし、重要なのはセンサーの数そのものではありません。

物理世界で何が起きているのかを継続的に観測し、それをAIが理解できるデータにすることです。

自動運転車が道路を走るにも、ロボットが工場で作業するにも、まず周囲で何が起きているのかを認識しなければなりません。

AIが物理世界を「動かす」ためには、その前に物理世界を「見る」必要があります。

「見る」だけではなく、「実験する」

第2部で取り上げたもう一つの予測が「Autonomous labs accelerate scientific discovery」、自律型ラボです。

研究室では、研究者が仮説を立て、実験を設計し、実験を行い、その結果を分析して、次の実験を考えます。

これをAIとロボティクスによって自律化するという考え方です。

記事では、

自律的に「仮説→実験→分析」を繰り返す無人ラボ

と表現しました。

単に実験装置を自動化するという話ではありません。

AIが仮説を考え、実験条件を決め、物理世界で実験を行い、そこで得られた結果を再びAIが分析する。そして、次の実験へ進む。

これが可能になれば、材料、化学、バイオなどの研究開発速度そのものが変わる可能性があります。

そして、ここまで考えると別の問題が出てきます。

AIは何を学習するのでしょうか。

AIの次のボトルネックは「産業データ」

1月3日に公開した第3部「産業データの覚醒:製造現場に眠る『次世代AI』の学習材料」は、次の文章から始まります。

2025年、AIの話題はコンピュート制約とデータセンター建設によって定義されました。2026年、それはデータ制約と、質の高いデータを求める競争の次なる主戦場によって定義されるでしょう。それは我々の重要産業です。

これまでの生成AIを支えてきたのは、インターネット上に存在する大量のテキストや画像です。

しかし、工場でどのように製品を組み立てるのか、機械がどのような状態になると故障するのか、作業員がどのように設備を保守するのか、といった情報の多くはインターネットには存在しません。

そもそもデータとして記録されていないものもあります。

新年企画の全体記事では、こうまとめました。

AIの次のボトルネックは「データ」です。インターネット上のテキストは使い尽くされつつあり、次の学習対象は物理世界のデータです。製造現場、メンテナンス作業、トラック運行など、重要産業には膨大な未活用データが眠っています。

工場で毎日行われている作業、設備のメンテナンス、トラックの運行、製品の試験。

これまでは、それぞれの仕事を遂行するために行われていた活動です。

しかし、それらがAIの学習材料になるのであれば、これまで記録する必要がなかった現場の活動にも、別の価値が生まれることになります。

第3部では、これを「産業データの覚醒」と呼びました。

長年眠っていた重要産業のデータが、AIという触媒によって、ついに価値を生み始める。その転換点が訪れています。

別々の予測を追っていたはずが

こうして3日間にわたって記事を書いてみると、最初は別々に見えた6つの予測の間に、共通するものが見えてきました。

第3部の最後では、3本の記事を次のように振り返っています。

  • 第1部:AIネイティブ製造業の台頭では、AIを前提とした産業プロセスの再設計、工場のプロダクト化、electro-industrial stackという統合技術基盤の重要性を見てきました。
  • 第2部:物理世界の可視化革命では、物理世界のリアルタイム観測を可能にする物理的オブザーバビリティと、科学研究の生産性を桁違いに高める自律ラボを取り上げました。
  • 第3部:産業データの覚醒では、重要産業に眠る膨大な未活用データが、AIの次の学習対象として注目されていることを分析しました。

そして、こう結論づけました。

これら3つのテーマは、独立したトレンドではなく、一つの大きな構造変化の異なる側面です。その構造変化とは「ソフトウェアとAIが、ついに物理世界を本格的に変革し始めた」ということです。

2000年代、ソフトウェアは情報産業を変革しました。2010年代、モバイルとクラウドがその変革を加速させました。2020年代、AIとロボティクスの進化により、ついに物理世界、製造業、建設、インフラ、科学研究が変革の対象となっています。

「Physical AI」という言葉から最初に思い浮かべるのは、AIを搭載したロボットや自動運転車かもしれません。

しかし、今回取り上げた予測を追っていくと、その周囲には工場があり、センサーがあり、研究室があり、産業データがあります。そのさらに下にはモーター、電池、材料、鉱物まであります。

2026年、AIがコンピューターの中から物理世界へ本格的に出ていくとすれば、変わるのはロボットだけではなさそうです。