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関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

米ニューヨークで立ち上げるシード・アクセラレーター「FabFoundry」からの続きです

FabCafeは2012年春に東京・渋谷で営業を開始した、レーザーカッターや3Dプリンターが設置してあるカフェ。モノづくりの楽しさを、最新の技術である「Digital Fabrication (デジタル製作。いわゆるデジタル技術を利用したモノづくり)」を通して広めていくことを目的とした「クリエーターのコミュニティ」といった方がよいかもしれません。

世界中で広がっている「ものつくり革命」のムーブメント、"FAB"

オープンで、居心地の良い空間で生まれるクリエイティブコラボレーションは、次世代のものづくりを変えていくと信じています。

私はFabCafeのコンセプトが、1990年代半ばに出てきた初期の「インターネット・カフェ」と重なりました。インターネット・カフェとその後に起こったネット・ブーム、そしてインターネット・ビジネスの起業を促進する「インキュベーター」という流れが、今度は3Dプリンターを代表とする「デジタル製造技術」と「IoT(モノのインターネット)」で起きるのではないかというのが、そのときの仮説です。

Startup Ecosystem at FabFoundry

マウスやタッチパネルがなかったころのPCは、当時すでに価格が急激に下がっていて「コンピューターが一気に普及する」と言われていました。しかしマイクロソフトがWindows95を出し、ブラウザを無料でバンドルするまでは、実際に触ったことがある一般人は少数派でした。

翻って現在、3Dプリンターはメディアなどでは「低価格化で一気に普及」などというトーンで紹介されていますが、実際に使いこなしている人はごくごく少数だと思います。ユーザー・インタフェースの改善や教育の浸透、そしてなにより使っている人が一定数を超えると一気に普及する「ネットワーク効果」が発生する前の現段階では、それも致し方ないところです。

インターネットの普及は、PCの普及によるところが大きかったと思います。その結果としてネット企業が急速に増えていきました。同じように、3Dプリンターなどのデジタル製作機械の普及が、インターネットを活用したハードウェア(IoTなど)の普及と、そうした製品を開発するIoTスタートアップ企業の増加につながるだろうというのは、十分起き得ることではないか。つまりFabCafeという場の提供によるモノづくりのブーム(Maker Movement)の促進、そしてモノづくりビジネスの起業を促進する「モノづくりのアクセラレーター(インキュベーター)」の設立という流れは、IoTの普及とIoTビジネスの促進にとってはとても自然なことに思えるわけです。

そのためには、デジタル製作技術を専門家のサポートを受けながら体験しインスピレーションを得ることができる「FabCafe」と、インスピレーションを受けたデザイナーや起業家が、興味半分で始めたモノづくりのプロトタイプから、実際に会社を興し、コミュニティの助けを借りながら会社を成長させていく場所である「アクセラレーター(インキュベーター)」を作り、その中核コンセプトに「IoT」を据える -- これは理に適っている。そう考えました。

あまり覚えている人はいないかもしれませんが1995年夏に日本IBMと伊藤穰一氏が、東京・広尾のお洒落カフェ「Cafe Des Pres (カフェ・デ・プレ)」に、Windowsの後継OSとして開発されていたOS/2搭載のPC「IBM PS/55」3台をインターネットに接続して設置し、有償ながらカフェのお客さんがインターネットを体験できるようにしたのが、日本でのインターネット・カフェの走りでしょう。

そして2000年には伊藤穰一氏がインキュベーター「ネオテニー社」を作り、2003年にネット系スタートアップ「シックス・アパート」に投資したことが、私の中では一つのコンテキストを持ったストーリーになっています。なので今回のFabCafeを核にするアクセラレーター(インキュベーター)活動は、ある意味、先人のたどった軌跡を現代風にアレンジすればよい、そんな風に感じられて仕方がありません。

そんな経緯でFabFoundry社のビジネスモデルは、FabCafeとアクセラレーターの2本柱として、徐々に固まっていったわけです。

つづきます。

この記事は、ニューヨークとVC投資・アクセラレーターに関する記事の一つです