Sync A World You Want To Explore

関 信浩が2002年から書き続けるブログ。ソーシャルメディア黎明期の日本や米国の話題を、元・記者という視点と、スタートアップ企業の経営者というインサイダーの立場を駆使して、さまざまな切り口で執筆しています

生成AIスタートアップが巨額の資金を集めている。設立1年のAdept AIが3月にGeneral CatalystとSpark Capitalのリードで3億5000万ドルを集めると、ChatGPTと競合するCharacter.aiも、2021年設立のスタートアップながら、Andreessen Horowitzから1億5000万ドルを調達し、ユニコーン企業になった。 特徴的なのは、出来たばかりのスタートアップが、シード・ラウンドで数十億〜百億を超える額を集めていることだ。

これらのスタートアップは、先行者利益を得るために、供給が切迫しているAIチップ(GPGPU)を大量に買い込む必要がある。そのために巨額の資金を渇望し、VCがそれに応えている形だ。 しかし、このシナリオは、エクイティ投資家にとっては、けっして健全ではない。なぜなら、エクイティで調達した資金の大半が、競合優位性を得るための知財に投資されるのではなく、汎用的な設備への投資に回されていることを意味するからだ。キャピタル・ゲインで収益を上げるVCにとって、投資効率が著しく悪いことを意味する。 同様のケースは、暗号資産(クリプト)のブームでも発生した。マイニングに必要なハードウェアを大量に購入したスタートアップは少なくなかったが、彼らへの投資のROIは散々な結果に終わった。

設備投資に成長資金が使われるのは健全か?

現在のVC資金の多くはSaaSのビジネスに流れている。これは、ハードウェアの調達・運用を外だしできるため、エクイティ投資のほとんどをビジネスの競争力強化(=知財の構築)に使えるため、きわめてROI効率が良いからである。 しかし今後、必要なハードウェアを自ら調達し、付加価値サービスをバンドルして、サブスクリプション(期間に応じた課金)型やユーティリティ(利用量に応じた課金)型の料金体系でサービスを提供する、いわゆるHaaS(Hardware-as-a-Service)型のスタートアップへのニーズは高まることが予想される。

例えば産業用ロボットを利用量に応じて課金するRaaS(Robot-as-a-Service)。最近のロボット系スタートアップは、ハードウェアは大手メーカーのハードウェア(例えばFUNACのアーム型ロボット)を調達し、そこに独自のハードウェアや制御ソフトウェアをバンドルし、特定用途のロボット(例えば箱詰め用ピッキング・ロボット)として提供する。課金体系はサブスクリプション型やユーティリティ型で初期費用を抑えることで、ユーザー獲得を容易にしている。

こうしたHaaSモデルは、2024年問題に揺れる運送業界に自動運転トラックを導入するケースや、過疎化が進む地方自治体に自動運転バスを導入するケースなど、大きな初期投資が難しい顧客に対して、新しいサービスを導入する「起爆剤」になることが期待できる。 また将来的には、GX(グリーン・トランスフォーメーション)という政府の掛け声が進められている、気候変動対策についても、スタートアップ企業が参入する機会を作ることが可能になるだろう。ただし、そのためには、汎用的なハードウェアではなく、スタートアップが作ったハードウェアの資産価値の算定などのノウハウを貯める必要があるだろう。

「エクイティ」と「デット」がセットに

エクイティの資本効率を上げるための方法として、いわゆる「ベンチャー・デット」を利用する方法がある。2023年春に経営破綻したシリコンバレーバンクは、エクイティの調達時に、エクイティの20%〜40%程度のデットを貸し付けるベンチャー・デットの先駆けで、多くのスタートアップが借り入れていた。 ベンチャー・デットの貸主が重視していたのが、エクイティの調達の「質」である。というのも、ベンチャー・デットの担保は、将来のエクイティ調達だからである。というのも、スタートアップは、調達資金を将来の成長に費やすため、LBOなどのように将来のキャッシュフローを担保にすることが出来ないからである。

一方で、ベンチャー・デットは、貸主が資金使途に制約がほとんどつけられない。というのも、スタートアップは組織として未成熟なため、複雑なオペレーションを実行できるだけのリソース(人的資源、資金など)が不足しているからである。 そのため、ベンチャー・デットの貸主の多くは、スタートアップ向けの融資に特化していることがほとんどである。彼らが見定めるのは、将来のエクイティ調達の確度を左右する、VCのネットワークであったり、経営経験に乏しい経営陣の質であったりするからだ。この分野のノウハウを持つ金融機関は、ほとんど存在しない。

プロジェクト・ファイナンスでリスクを軽減

そこで、HaaSスタートアップ向けのファイナンス方式としては、プロジェクト・ファイナンスを活用する。 具体的には、調達するハードウェアをスタートアップに貸し付ける特定目的会社(SPC)を利用する。 基本的なハードウェアとお金の流れ(ストラクチャー)を表したのが以下の図である。

通常のオペレーティング・リースとの相違は、スタートアップの与信でリースを組むのではなく、SPCに出資するプロジェクト出資者の与信や、スタートアップの事業の成功確率、供給される製品の資産価値をベースにリース料が決定されることである。 一方、スタートアップ及びSPCへの出資関係を示したのが以下の図である。

HaaSスタートアップがハードウェアの資産管理もする従来型のHaaSスタートアップの場合、HaaS Fundはスタートアップそのもののビジネス競合性と、設備投資(資産)という、異なるリスクを持つ資産に出資していた。 それに対して、スタートアップから、ハードウェア資産管理をSPCに分離することで、リスクに応じた出資をすることが可能になる(そのためHaaS Fundは、スタートアップ出資用ファンドを切り出し、投資先に応じて異なる運用期間を設定することも視野に入れる)。 また、資産管理サービスの提供企業や、ハードウェアの供給会社なども、SPCへの出資意欲を持つ可能性が高い。ただし利益相反取引に陥りやすいこと、スタートアップのオペレーションの規模が小さいことから、HaaS FundへのLP出資を経由することが現実的であろう。

スタートアップ独自ハードウェアをHaaSで提供する場合

同様のスキームは、スタートアップが独自に作るハードウェアの場合も適用できる。しかし、AIチップや汎用ロボットなどの既製品のハードウェアの場合と異なり、SPCが抱えるリスクが高くなる。そのため、SPCの組成や運営については、ノウハウなどが必要になってくる。 このシナリオは、供給業者の提供するハードウェアの汎用性が低いなどリセールバリューが低い場合などにもあてはまる。 そのため、HaaS FundからSPCへの出資比率を高める、独自ハードウェアのデュー・デリジェンスが可能な資産管理サービスと連携するなどの対応が考えられる。